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理科の授業で、手持ちルーペによる集光を学んだ。
まさかレンズを通して集めた太陽光が、紙の上に描いた黒点を焦がすほどの熱になるとは思わなかったので、心底驚いた。
隣の席に居たはずのナツキにも見せてやりたかった。
しかし残念ながら今日は休みだ。というか、もう数ヶ月学校に来ていない。
――ナツキはクラスでも目立った存在だった。
頭も見てくれも良かったし、運動も出来て、いつでも注目を集めた。
ちょうどこの白紙に描いた黒点のように、人と違った個性があって、憧れの対象でもあった。
でも目立つというのは多くの人の目に触れるという意味でもあり、好かれる好かれないの二律背反に巻き込まれやすい。
そしてネガティブな感情は、総じてポジティブなそれよりも影響力が強い。
気付けばナツキは、クラス内で浮いた存在になっていた。
暖かな太陽のようにナツキを包んでいたクラスメイト達が、ネガティブな感情というレンズに煽動されて敵意を向けた。それは大きくて抽象的な光から、より具体的な光線のように変化し、やがて黒点たるナツキを焼いた。
この理科の授業が僕に教えてくれたのは、光を集めることの怖さだ。
そして他人事として顔を背けていた僕自身も、ナツキを苦しめていた光であり、レンズなのだと思い知らされた。
部外者ではない。クラスメイトであり事情を知っていて黙っていた僕は、この実験に投影してみれば、立派な光、加害者なのだ。
ここからレンズを叩き割るにはどうすればいい。間違えば自分が黒点となり、今日までの友達がレンズ越しに敵になるかも知れない。
チャイムが鳴り、授業が終わる。
僕の考えは、まとまらないまま――。
■おわり■
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