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安部はお白州を眺めてそこに昨日の自分と平の姿を思い浮かべた。
「もう、くっそ面倒くさかったッス。もう二度と御免ッスね」
そう笑顔で答えた安部の肩を、真鍋も笑いながら叩いた。
「だろ? 暫くはトラウマになるかもな。夢に出てくるぞ、平課長」
既に今朝の夢に出てきていた安部はそれに苦笑した。
その日の夕方、安部が外回りから帰ると、買い物袋を下げたベテラン主婦二人が会社の正面入り口を見上げていた。
「あら、こんな看板あったかしらね?」
「まあホント、素敵な看板。随分古そうね」
縦長の木製看板の上に三角の屋根がついた屋根看板。その看板が、空を写すガラス張りのビルに映えている。
「来年で創業二百年なんですよ。あの看板は創業当時の物です」
横で説明をした安部に、二人の主婦は「へえ」と感心して去っていった。
その後も一分近く看板を見上げていた安部は、ついつい緩んでしまう表情を隠すことなくオフィスへと戻った。
「只今帰りました!」
了
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