7人が本棚に入れています
本棚に追加
「君と平君が入社二年目の時だ。その年に初めて新入社員研修で指導する側に立った平君が、入社一週間目にくだらん理由で年休を消化した新人に怒ってね。社会の一員として働くことの意味を教えてやるとか言っていたな」
持田は話を聞きながら自分の顎がだらしなく下がってゆくのに気付いて、慌てて口を閉じた。
「それ、考える平さんも平さんですけど、それを実行する社長も突き抜けてますね」
「まあな。あの時は暇な時期でもあったし、面白そうだと思ったからな」
持田が社長室に居て、度々耳にする言葉だ。
――面白そうじゃないか。やってみろ。
社長秘書になって間もない頃の持田は、そんな宮辺に対して、なんと無責任な発言をするのだろうと思っていた。だが最近では、宮辺がそう言えるのも、部下が失態を犯しても自分が責任を取れる自信があるからだと理解している。それはさておいても、宮辺はとにかく「面白いこと」が好きだった。
「社長、何となくですけど私、どうして社長が平課長に役職を与えたのか、分かった気がします。面白そうだからですよね?」
宮辺はその推測に笑った。
最初のコメントを投稿しよう!