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会社は生き物であり、その会社に平は恋をしている。「仕事が恋人」とはよく聞くフレーズだが、平は「会社が恋人」なのだ。真面目に自分が結婚しないのは、この会社と付き合っていると、普通の男がつまらなく感じて仕方がないからだと公言している。
その平が、最後に営業部を訪れた。外回りに出ている従業員が帰社している時間を見計らって行ったが、まだ真鍋だけは戻っていないようだった。
「ああ、平課長。どうなりましたか?」
曽我が真っ先に平の姿を見つけて声を掛けた。
「それを今からご説明します。真鍋課長はまだ戻られてないんですね」
「ええ。もうすぐ帰ってくるとは思いますけどね。コーヒーでも飲んで待ちますか?」
やたらとコーヒーを勧めてくるのも、平が曽我を苦手とする原因のひとつだった。とは言っても、平がコーヒーを嫌いだからではない。むしろコーヒーは好きな方だし、曽我の淹れるコーヒーは下手な喫茶店よりも旨い。それだけに、空間として気に入って通っている喫茶店に失望したくないのだ。
「いえ、結構です。真鍋課長には細々した説明は必要ないでしょうから、とりあえず今いる方にだけ説明します」
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