7人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言った平もまた、自分の発言に項垂れた。何でも面白さを優先するのは、宮辺物産に相当毒されているような気がしたのだ。それはもう、真鍋にも分かるくらい表情に出して。だが、真鍋はその平を見ていないふりをして、店員を呼んだ。
「コレ、お願いします。ウサギのシチュー。平課長、ひとつでいいですよね?」
平は無言で頷いた後に天井を見上げた。見上げた先にあった、ジョージアのエルサレム十字をあしらった国旗に目が止まる。
「またいるかよはねまるこ」
ポツリと呟いた平に、真鍋が首を傾げた。
「何ですか? またイルカよ羽根まる子って」
「福音書」
「福音書? ああ、マタイ、ルカ、ヨハネ、マルコですか」
「何だと思ったの?」
「いや、どこにイルカとか、まるちゃんがいるのかと」
そう言った真鍋に向けられた平の顔は、何を考えているのか分からない、いや、魂が抜かれたように無表情だった。
「分かった。分かっちゃった」
「何が分かったんです?」
「研修後、すぐに私が課長になった理由。くっそピカイチめ」
どういう思考の巡りで平が気付いたのかは分からないが、ようやく理由に辿り着いた平を、真鍋は同情の目で見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!