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第4話 いざ始動
九月二十六日火曜日午前七時三〇分。
普段よりも一時間近く早めに出社した平は、ビルの守衛室の前に立っていた。
「おはようございます。六階の鍵をお願いします」
平が小さな窓越しに中にいる守衛へ話しかけると、守衛はキーボックスを開いて首を傾げた後、手のひらを打った。
「そういえば、六階なら朝一に社長が持って上がられましたよ」
「え? ピカイチ来てんの? っつうか、朝一って何時?」
「六時ぐらいですかね。うん、はい、五時五七分ですね」
守衛がパソコンのモニターを確認して正確な時刻を告げた。
「五時? 年寄りめ」
朝一番に、まだ誰も来ていないオフィスのドアを開ける。そんなささやかな平の夢は、宮辺によって砕かれた。
六階でエレベーターを降り、営業部のオフィスのドアノブを回すと、重りを一番上に上げたメトロノームのような音が平の耳に届いてきた。その音は応接室の中から聞こえてくる。平がノックもせず扉を開けると、碁盤を挟んで宮辺と曽我が座っていた。
「なーにやってるんですか。あ、『見れば分かるだろう、碁だよ』とか言わないで下さいね」
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