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平に先手を指された宮辺は、赤潮で苦しむ魚のように口をパクパクとしている。
「これは平課長、おはようございます。もうそんな時間になりましたか」
曽我がそう言いながら腕時計を見ている。
「おはようございますじゃないですよ。休んで下さいって言ったじゃないですか」
平の小言に、曽我は頭を掻いた。
「いやあ、用事もないのに会社を休んだら、妻からリストラされたんじゃないかと心配されやしないかと思いましてね」
「仕事がないのにスーツ着て家を出る方が余程怪しいですよ」
曽我は平の指摘に「なるほど」と頷いただけで、碁盤に新しく石を置いた。それを見た宮辺が眉間の皺を深くしている。
「そうだ、社長。私が課長になった理由、分かりましたから」
「ああ、そうか」
わざとらしく囲碁に集中しているかのように顎をさする宮辺に、平は軽く苛立った。
「もう私が社長をピカイチって呼んでも怒れませんね」
「光って文字はピカとは読まん」
「『沙院』はしゃいんでも輝くシャインですよ! アレ? なんか違うな」
宮辺は、自分の発言のおかしさに頭を両手で押さえている平を鼻で笑った。
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