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「平君、見ての通り我々は遊んでいる。気にせずに仕事をやってくれ」
宮辺は碁笥の中の碁石をかき混ぜるように指で弄びながら、野良犬を追い払うような手つきで平をあしらった。そんな態度をしながらも、二人が平の仕事と、安部のことが気になって仕方がないのだと分かっている平は、それ以上何も言わなかった。
宮辺物産の始業時間は八時二〇分。普段は八時過ぎに出社してくる真鍋も、十分ほどではあるが早めに出社してきた。出社と言っても普段のスーツ姿ではなく、長袖のTシャツにチノというラフな格好だ。その真鍋がオフィスに入って最初に見た物は、お白州の中央に巨大な模造紙を広げている平の姿だった。
「おはようございます。平課長、それ何ですか?」
「おはよう、おなべ。これはちょっとした小道具」
「はあ、おなべに戻ったんですね」
そう言って悲しい表情になった真鍋は、応接室の曽我に「鍋蔵」と言っているのを聞かれたくないという平の思いには気付かない。
「小道具って、何に使うんですか?」
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