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「会社への不満とかね、要望を書くの。で、社長室の前に張り出す。その作業を、安部君のスケジュールが空いている時に手伝ってもらうのよ」
説明されてもその目的も効果も全く想像できなかった真鍋は、「へえ」とだけ返して給湯室に向かった。
「平課長も飲みます? コーヒー」
よく通る声でそう言った真鍋に、平は舌打ちをした。
「真鍋課長、コーヒーなら私が淹れますよ!」
真鍋の耳に、それはまるで天の声のようにでも聞こえたのだろう。滑稽なほど曽我の声に反応して周囲を見渡している。
十分後に淹れられた曽我のコーヒーはやはり、平の怒りのケトルが笛を鳴らすほどおいしかった。平は一瞬、曽我が店を出せばいいのにと思ったが、カウンターの中で妙な小咄などされては落ち着けないとその考えを振り払うと同時に、営業部長という立場が曽我には最適な気がしてきていた。
そうこうしているうちに、始業時間を知らせる宮辺物産社歌オルゴールバージョンがスピーカーから流れ出し、最後の和音の残響が消える寸前に、安部がオフィスに登場した。宮辺と曽我は既に応接室へと退場している。
「ざーッス」
「安部君、おはよう」
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