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安部は言われるままにお白州に移動して模造紙の前に胡坐をかいた。平は意外と素直に応じる安部に安心すると同時に、その安部を最初の研修期間中に指導しきれていなかった自分を悔やんだ。
「これ、書いたとしてどうするんッスか?」
安部はマジックのキャップを片手で開けたり閉めたりしながら平に尋ねた。
「社長室の前に貼る。ピカイチに見てもらわないと意味ないでしょ、要望なんだから」
平が答えても、安部の手は模造紙の上に伸びなかった。
「どうしたの? 何もない?」
顔を覗き込んで来た平の目を安部が見返すと、マジックの蓋をしっかりと閉めて、模造紙の上に転がした。
「別に不満とかないッスよ」
そう言って頬杖をついてしまった安部に、平は別の質問を投げた。
「安部君って、馬鹿じゃないどころか、頭いいよね?」
平は模造紙の横に置いてあった紙袋に手を伸ばし、中から一冊のファイルを取り出して、それを捲りながら話した。
「は? 別にフツーじゃないッスか?」
「いいや、賢いよ。大抵の仕事は一度で覚えるし、効率のいい方法も、自分なりに考えられる」
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