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急に褒められ始めた安部は、首を横に向けて耳の穴を小指で掻き始め、平に対して否定も肯定もしない。
「営業成績も二年目にして中の上ってところかしらね。書類の作成も丁寧でミスも少ない」
「だからなんッスか? もっと真面目に働けって?」
「これ、安部君がこれまでに出した年次有給休暇届。理由の欄だけどさ、病気で休んだ後に出されたものには『体調不良のため』って書いてあるのに、事前申請のやつは空白なのはどうして? 仕事の書類は完璧に書けるのに」
平は安部がどう答えるのかわかりきっていたが、敢えてその質問をした。そして、やはり平の想像通りの答えが返ってきた。
「今時理由を訊く会社の方が少ないんじゃないッスか?」
「あら、どうして?」
平の反応に、安部は嫌悪する物を嘲る様に口の端を歪ませた。
「年休を取るのに理由は必要ないんッスよ? 労働者に与えられた権利なんッスから」
予想していたとはいえ、平は悲しくなった。安部が言っていることは正しい。だが、正しいだけだ。
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