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「はい、総務部田丸です。ああ、曽我部長、お疲れさまです。平課長ですか? ちょっと待って下さいね」
曽我からの電話を受けた田丸は、座ったままで受話器を持った腕を前に伸ばした。
「平課長、営業部長から内線です」
総務部のフロアーに、コの字に並べられたデスク。その中央のスペースに、長机を二つ合わせた共用の作業スペースがある。そこにスポーツ紙を広げて、三面の片隅に載った「新助っ人外国人三日で帰国」という記事を読んでいた平が、大きな黒縁眼鏡の奥で面倒くさそうに目を細めた。
「平は昨日、死にました!」
平は、自分の方に向けられた受話器にそう言って紙面に視線を戻した。
「だ、そうですけど。はい。分かりました。え? いや、まだだと思いますよ。今スポーツ新聞を読んでいるところですから。はい。はい。お疲れさまです」
受話器を置いた田丸が、ノートパソコンのモニターを少し閉じて平と向き合った。
「曽我部長、来るって言ってましたよ。コーヒーを持って」
田丸の呼びかけに、平がゆっくり顔を上げた。
「おまる」
「田丸です」
「くるって言ってたの? コーヒー持ってくるって?」
「ええ」
「『ブエヘヘヘ! 焦がした豆のエキスを含んだお湯をお見舞いしてやろうか!』とか言ってた?」
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