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平が紙袋から束になった年次有給休暇届を出すと、仕方なさそうに安部が一枚ずつ理由欄を流すように読み始めた。平は安部の表情に注目している。安部の表情は何とも豊かだった。そして、それも問題点のひとつに繋がっているのだろうと思った。
ある一枚の届を見ていた安部が、とうとう吹き出して笑った。
「これ、酷くないッスか?」
安部が笑いながら出した紙を平が受け取って読んだ。平もまだ提出された届には一枚も目を通していない。
「んーっと、流通管理課の佐竹君か。どれどれ。『宗教上の理由(俺が神様)』なるほど。なかなか汎用性のある理由だね。十月だったらもっと良かったのに。はい」
さらっと受け流して紙を返してきた平に、安部は眉間に皺を寄せた。
「なんッスか、まだまだ甘いみたいな顔して」
「まだまだだからよ。また変なのあったら教えて」
安部は口をへの字にしながらも、残りの届を読み進めていった。
その頃応接室の宮辺と曽我は、音を立てないようにと、お互いを目の前にしながらスマートフォンで囲碁のオンライン対戦をしていた。
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