第4話 いざ始動

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 安部は集中して年次有給休暇届に目を通している。宮辺の言葉を借りれば「小規模大企業」である宮辺物産の従業員数は二百人を僅かに超える。その数の届に目を通し終えた安部は、ふとあることに気が付いた。 「あの、電話鳴らなくないッスか?」  安部が出社してきて、一時間が経過していた。その間、電話が一度も鳴っていない。その事実には平も気が付いていなかったようで、安部の指摘を受けて腰を上げた。手近な端末の外線ボタンを押し、スピーカーから発信音が鳴っているのを確認すると、今度は自分の携帯電話で会社の代表番号へ発信してみた。すると静まり返ったオフィスに呼出音が響いた。 「ちゃんと繋がってるね。うん。ピカイチが頑張ったのかな」 「社長が何をですか?」 「取引先への周知よ。相当な数だったはずだけどね」  安部はその仕事を想像してゾッとした。営業の実動部隊は八人。その八人が分担して回っても、まだ人手が欲しくなる程度には取引先が存在する。全ての取引先へ実際に出向いたわけではないだろうが、一週間で頭を下げて回るのは容易ではないはずだ。ただの挨拶ではないのだから、メールひとつで済む話ではない。
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