第4話 いざ始動

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 それは自覚しているようで、「あっ」と小さく声を出して俯いた。 「確かにね、大人として本音と建て前って大事だと思うよ。でも、本音を隠そうとする癖が染みついて、顔を見せないようにすると同時に、周りが見えなくなっていたのよ。今日も出社して、他の人がいないのにも、お白州にこんな模造紙が広げられていたのに気付かなかったでしょ。でも、それは安部君が悪いってわけじゃなくて、周りが気付いて指導してあげるべきなの。自分で気付いて改善できる人なんて、悟りを開いた聖人ぐらいなものよ」  ふざけて見える平に鋭く指摘をされた安部は、ふざけたことばかり書いてある年次有給休暇届を読まされたのにさえ意味があるのではないかと考え始めた。だが、とても指導的意味があるとは思えなかった安部は、たった今暗に教わった「分からないことは聞け」ということを実行した。 「あの、平課長。ところで、こんなの俺に読ませた狙いって何なんッスか?」 「あら。分からない? それ読んで思ったこととか、感じたことはなかった?」  分からないから聞いているのだと言わんばかりに、安部は口を尖らせた。
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