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「そうね、例えば営業部の町田さん。彼女は安部君の一年先輩だよね。彼女が提出した年次有給休暇届にはなんて理由が書いてあった?」
平がそう聞くと、安部はその届を探すことなく答えた。
「えっと、確か『自分探しの旅で自分を忘れてきたので、自分探しの旅で忘れた自分を取りに行くため』だったかと」
「すごっ。一度見てもう覚えてんだ。で、どう? 感想は」
安部は、最初に佐竹が書いた理由に対する感想を流されてしまったのを思い出し、控えめに返した。
「まあまあ、じゃないッスか?」
「そうじゃなくて、もっと具体的に感じたこと。面白いとかつまらないとかじゃなくて」
具体的にと言われてもどう答えていいかわからない安部は、その豊かな表情でそのことを訴えた。
「思ったことそのままよ。もう一度紙を手に取って読んでみて。そして心に浮かんだことを言葉にするの」
既に平の言う通りに行動することに抵抗も疑問も感じなくなっていた安部は、言われるままに町田の名前を探した。
「えーっと、やっぱり『自分探しの旅で、ホテルに自分を忘れてきたので、自分探しの旅で忘れた自分回収の旅に行くため』で」
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