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「どこを?」
「だから理由を」
再び顔を上げた安部の目の前に、満足そうな平の顔。それを見た安部は、上手く操られた自分に、思わず顔をしかめた。
「理由関係なく年休が取れるのは労働者の権利だけど、会社にはその日にちを変えてもらうようにお願いできる権利があるの。その時に理由が書いてあると、会社としては助かるのよね」
平はそう言うとオフィスの壁の時計に目を動かした。
「まだ十時前か。意外と早く終わっちゃうな」
平は「ヨイショっと」と掛け声をかけて立ち上がると、両手を上げて背伸びをした。
「んーっ、床に直接座ると体が冷えるね。安部君、コーヒー飲む?」
平にそう声を掛けられて、安部は慌てて立ち上がった。
「いや、俺が淹れますよ。課長に淹れてもらうわけには」
安部はそう言いながら、途中で笑い出した平に首を捻った。
「普段部長に淹れてもらっているでしょ? この会社では淹れたい人が淹れるのよ、コーヒーなんて」
「え? いつも部長が淹れてたんですか?」
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