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「ん? ああ、狂ってないですよ。曽我部長が来られるそうです」
「おまる」
「田丸です」
「私帰る」
「指導課長がそれじゃ駄目でしょ」
平は盛大に嘆息して、スポーツ新聞の上に突っ伏した。
「曽我部長苦手なんだよなぁ。ふざけた顔してふざけたこと言うくせに、変に真面目だから」
「私はあなたが苦手ですよ、平課長」
田丸の言葉に平が勢い良く身体を起こすと、緩くウェーブのかかった長い髪が、平の顔の半分を覆った。
「おまる」
「田丸です」
「部長だからって、私より偉いと思ってるのね」
「部長だからあなたより偉いんですよ。ほら、曽我部長がいらっしゃいましたよ」
「えっ? 早っ」
平が振り向くと、片手に赤いケトルを、もう片手にネルをセットしたカップを持った曽我が、ドアを腰で開けて姿を現した。
「失礼しますよっ、と」
平がその姿を見てスポーツ新聞を畳むと、そこにできたスペースに、曽我がコーヒーカップを置いた。カップの中は空だ。
「向こうで淹れていたら逃げられてしまいそうで。いやあ、昨日死んでいらしたわりに今日もお綺麗で」
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