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第6話 身勝手から出たわびさび
「ざーッス」
翌日から、また平凡な日常が訪れた。
安部はオフィスに入るといつもの挨拶をして、椅子に座りパソコンを立ち上げた。営業部のスケジュールを確認して、この日の自分の動き方を決める。直接他の従業員と声を交わさなくても、パソコンの画面を見れば仕事ができる。稟議書でさえ、パソコンで回す時代だ。
メールをチェックし、自分のスケジュールを打ち込んでいると、芳ばしい匂いが安部の鼻を抜けた。立ち上がった安部は、給湯室へと向かった。
「部長、おはようございます」
「おはようございます、安部君」
曽我は、ケトルから糸のように伸びる湯をネルに注ぎながら安部に挨拶を返した。
「部長、淹れ方教えて下さいよ」
ネルの中で膨らむ泡を見ながら曽我は微笑んだ。
「ええ、喜んで。それでは明日はもう十分程早く出社して下さいね」
「はい、お願いします」
曽我に頭を軽く下げて安部が自分のデスクに戻ると、真鍋が腕組みをして立っていた。
「急に変わる必要もないし、急に変われるものでもない」
「はい」
「どうだった? 昨日は」
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