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「おま、いや、田丸部長、曽我部長がセクハラ発言をしています」
平が情けない声でそう訴えたが、田丸は請け合わなかった。
「どの口が言っているのですか。それにお綺麗ですよ、確かに」
「ずりぃな、オッサン」
「何か言いましたか?」
「何でもありません! もう。それで、曽我部長、どんなご用件でしょうか?」
平が曽我の方に向き直ると、曽我はパートの事務員にお湯を沸かすように赤いケトルを渡していた。
「ああ、すみません。実はですね、営業部の安部ですけれど、少々休み方が自分勝手でしてね」
曽我はそう言って背広を脱ぐと、高座に立った落語家のように首を上下かみしもに振りながら今朝のやり取りを再現した。
曽我の口から繰り出される軽妙な言葉と、絶妙な表情と所作に、田丸は時折頷き、笑い、食い入るように聞き入っている。
「旦那、そうと決まりゃあ、御上にお伺い立てやしょう。おうハチ、ま、女将と言っても独り身だがの。と、言うわけなのです」
終始口を半開きにして聞いていた平が、最後の落ちに再び田丸へ訴えた。
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