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「おま、田丸部長、やっぱり曽我部長がセクハラ発言をって、今のそんなに面白かったですか?」
田丸は口を手で押さえて笑いを堪えている。
「え? 面白かったじゃないか。さすがは曽我部長」
当の曽我は涼しい顔をして脱いだ背広を再び着ている。
「そもそも毎回小咄する度に上着脱ぐのって何なんですか?」
「それは、枕から本題に入る時に羽織を脱ぐ癖がね。いや、それよりも安部君です。どうしたものでしょうか?」
真剣な表情で言う曽我に、平は眼鏡を外した。そして、その眼鏡を持った手の甲に顎を乗せ、この日初めて真面目な眼をした。
「久しぶりにやってしまいましょうか、アレを」
「アレを、ですか?」
その視線を正面から受けた曽我が生唾を飲んだ。自分のデスクにのんびり座っていた田丸も立ち上がった。
「平課長! さすがにやりすぎでは」
平は目を剥く田丸にニヤリと笑って立ち上がった。
「早速社長に談判してきます」
「平課長、コーヒーは?」
平は曽我の目の前に手のひらを広げた。
「ひと仕事終えてからご馳走になりますわ」
平が眼鏡を長机に置き、長い髪をなびかせながら颯爽と社長室へと向かう。残された田丸と曽我の耳に、フロアーを叩くハイヒールの尖った音と、平の笑い声が響いた。
「田丸部長、アレって何でしょうか?」
「さあ、何でしょうね」
なんにせよ平に任せれば悪いようにはしないだろうと、曽我は沸いた湯をネルの中で乾いているグァテマラに注いだ。
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