人の世も鬼に食われてばかりではない

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人の世も鬼に食われてばかりではない

私は気弱な性格で、人からの頼みごとをなかなか断れない。 おかげで会社では、誰もやりたがらない仕事を押しつけられがち。 今は生き地獄のような部署に手伝いに行かされている。 この部署を支配するのは裏の通称、鬼課長。 いろいろ厄介な面があるのだが、なにより、仕事を教えず、そのくせ部下がミスをすると精神崩壊するまで叱責するという、究極に理不尽なふるまいが目に余る。 反抗的でないからか、わたしはあまり目の敵にされず、でも、やはり鬼課長との仕事の心労はひどい。 昼休み休憩が済み、ため息を吐きつつ、重い足どりで生き地獄の部署に向かったところ。 「笠井さん」と呼ばれ、ふりかえったら、同僚の女性が。 「あなたよく、あの人格破綻者の鬼課長なんかと仕事ができるわね。 もしかして、あなたも課長と同類で根性が腐っているから平気なの?」 にこやかに語りかけるのに、ただただ呆気にとられた。 同僚といっても、名と顔を知っているだけ。 それほどの仲で、ほぼ初対面というに笑顔で平手打ちを食わすような真似をするとは。 唖然とするうちに彼女は去ったとはいえ、まわりにも自説を吹聴したらしい。 忙しくて放っておいたのだが、風評被害にあってしまい。 片思いしている彼と仕事の件で話したとき、ろくに口をきいてくれず、目を合わせてもくれなかったのだ。 怒ったり悲しむより、虚しくなったもので。 だれもやりたがらない仕事を懸命にこなして、このしうちか・・・。 さすがに気力が皆無となり、翌日から無断欠勤。 会社からは、早くもどってほしいと懇願されたが、鬼課長対策のためだろうと思えば、心は動かず。 なんと鬼課長本人からも「どいつもこいつも使い物にならないなかで、まともにわたしと仕事してくれるのはきみだけだ」と連絡が。 といって、むしろ興ざめして完全無視。 一週間経ち、会社から連絡がこなくなってから、会社の親しい友人に状況を聞いたところ。 「聞いてよ!あんたの穴埋めに同僚の子が手伝いにいったんだけど、鬼課長を半殺しにしちゃって! 『あの女のほうがいいなんて目が腐ってるんじゃないの!?』ってボールペンで目をぶっ刺したらしいけど、あんた、彼女となにかあったの?」 「いやいや、ほとんど話したことないし、一方的に謎のからまれかたをしただけでし」 「噂では、彼女も鬼課長を手伝うよう頼まれたらしいよ。 で、断ったあと、あんたが引き受けた。 だから『これじゃあ、わたしが仕事ができない女って思われるじゃない!』って恨んだんじゃない?」 「むちゃくちゃな・・・」 「彼女も鬼課長と同じくらい、やばい人だったんでしょ。 まあ、毒を以て毒を制す?というか、結果的には鬼を以て鬼を制すことができたわけよ。 鬼課長は重症で長期入院をするらしいし、彼女は逮捕されたというから」 この世には、彼らのような鬼がまぎれこんでいるのかもしれない。 気弱なわたしは餌食になりやすいと思うが、こうして鬼同士が共倒れすることもあるのだろう。
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