64人が本棚に入れています
本棚に追加
先ほど見えたトーク画面をシャットアウトするように、重たくなってきた瞼をそっと閉じたと同時。
「眠ろうとしてるところ悪いんだけどさ、このシーツ今すぐ洗いたいからどけてくんない?」
横から聞こえた成の声に再び瞼を開け、「え?」と戸惑い気味に返した。
「夜に彼女が泊まりに来ることになった」
「……、は?」
「さすがにここで寝させるわけにはいかねーしな」
「……」
「愛結だって嫌だろ?」
彼女?
……彼女って、なに?誰の彼女の話?
普段通り、あっけらかんとした様子の成が落とした爆弾。情けないことに、ひゅっと喉の奥が詰まって声すら出すことができない。
比喩でもなんでもなく、本当に頭が真っ白になって何も考えられなくなる。
「……彼女、って?」
取り繕うことも忘れ、ようやく出た声はか細く震えていた。
私の性格を一言で言えばドライ。感情を表に出すことはもちろん、他人に心を開くことも苦手。感情の読み取りにくい成にさえ「お前は何考えてるのかよく分かんねえわ」と、言われるほど。
感情に疎い自分は何か大切なものが欠落した人間なんだと、頭の片隅でそう思いながらずっと生きてきた。
だけど成と出会って、今まで感じたことのなかった多くの感情を知った。溢れ出てくる感情を抑えるのに必死で、成と一緒にいる時はずっと、何事にも動じない女を演じてきた。
「あー、俺ね、彼女ができたんだわ」
成の前で創り上げてきた羽澄愛結という女が今、彼の一言によって崩れ去ろうとしている。
最初のコメントを投稿しよう!