1.羽澄愛結の秘めごと

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先ほど見えたトーク画面をシャットアウトするように、重たくなってきた瞼をそっと閉じたと同時。 「眠ろうとしてるところ悪いんだけどさ、このシーツ今すぐ洗いたいからどけてくんない?」 横から聞こえた成の声に再び瞼を開け、「え?」と戸惑い気味に返した。 「夜に彼女が泊まりに来ることになった」 「……、は?」 「さすがにここで寝させるわけにはいかねーしな」 「……」 「愛結だって嫌だろ?」 彼女? ……彼女って、なに?誰の彼女の話? 普段通り、あっけらかんとした様子の成が落とした爆弾。情けないことに、ひゅっと喉の奥が詰まって声すら出すことができない。 比喩でもなんでもなく、本当に頭が真っ白になって何も考えられなくなる。 「……彼女、って?」 取り繕うことも忘れ、ようやく出た声はか細く震えていた。 私の性格を一言で言えばドライ。感情を表に出すことはもちろん、他人に心を開くことも苦手。感情の読み取りにくい成にさえ「お前は何考えてるのかよく分かんねえわ」と、言われるほど。 感情に疎い自分は何か大切なものが欠落した人間なんだと、頭の片隅でそう思いながらずっと生きてきた。 だけど成と出会って、今まで感じたことのなかった多くの感情を知った。溢れ出てくる感情を抑えるのに必死で、成と一緒にいる時はずっと、何事にも動じない女を演じてきた。 「あー、俺ね、彼女ができたんだわ」 成の前で創り上げてきた羽澄愛結(はすみあゆ)という女が今、彼の一言によって崩れ去ろうとしている。
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