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「えっ……、一条さん?」
私の放つ空気を全く読もうとしない成は、あろうことかスマホ画面を私へと向けてきた。
嫌でも視界に入ってきたのは、顔を寄せて微笑んでいる美男美女の2ショット。明るめの茶髪に緩いパーマをかけた成の横に写っているのは、黒髪ボブヘア、目尻の泣き黒子が特徴的な愛嬌のある女の子。
私はこの子を知っていた。
彼女の名前を口にしただけでたった今付けられたばかりの生傷が疼くように痛む。
「そう。この前偶然会っただろ?そっから連絡とるようになったんだよねえ」
「……」
写真の彼女、一条茉優は私と成の高校時代の同級生だ。といっても私は一条さんとは全く関りがなく、成は3年の時に同じクラスだったらしい。
つい1か月ほど前、成とラブホに行った帰りに立ち寄ったファミレス。そこで偶然一条さんと出くわした。
私たちを見るなり「2人って、付き合ってたの?」と少し驚いたように目を見開かせていた一条さんに「いや?付き合ってはいないよね」と答えた成は、くすりと笑って私を一瞥した。
私たちの空気感を察したのか「あ~そういえば成くんは彼女はつくらない主義って昔言ってたっけ!」と一条さんは笑っていた。その時の一条さんの笑顔は安堵が混じっていたようにも見えた。
一条さんは女の子らしい見た目とぴったりの可愛らしい声を上げながら成を見上げ、しばらく2人だけで会話を続けていた。
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