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「結局、町長選挙の結果、役場の上司が当選して新しい町長に決まったらしい。もちろん、テーマパーク建設も中止になった。町にとっては最良の結果になったわけだ」
葛城は教会の前で隣の守谷に言った。
守谷は黙って教会を見上げていた。
「ということは、この町では殺人事件は起きなかったということですね?」
「ああ。記録更新だ。天使の住まう町ってのは、本当だな」
「本当にそうでしょうか?僕は釈然としません」
「守谷、事実は受け止めるもんだぞ」
葛城は守谷の肩を叩いた。
撤去された天使の像が再び、設置し直されていた。
「俺たちには、まだやることがある。十年前に蒲田で起きた女子高生失踪事件。まだ女子高生は発見されていないからな」
「はい!」
「今日は珍しく、威勢がいいな」
葛城は踵を返して、車に向かった。
守谷は笑いを堪えていた。
やはり、ここは天使の住まう町だ。
今も教会の裏庭には、女子高生の遺体が埋まっているはずだ。町長が死に、テーマパーク建設が頓挫して一番、幸運だったのは守谷自身かもしれない。
守谷はあの夜に感じた柔らかな首の感触を思い出していた。
(了)
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