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 所轄から二人の刑事が町に派遣された。一人はベテラン、もう一人は新人だった。ベテランは葛城、新人は守谷といった。  川から引き揚げられた遺体はまるで眠っているかのように穏やかな顔だった。  葛城と守屋は手を合わせた。 「二十年ぶりに殺人なんて、この町には天使がいなかったわけか...」  葛城は空を見上げて言った。 「天使の住まう町って聞いてますけど、そんな町が本当に存在していたんですね」  守谷は感心したように言った。 「天使ってのは、死んだ人間を天国に連れて行く使者だろう。ということは初めて、町で仕事らしい仕事ができたんじゃないか。実際に死体が転がっていたわけだし」 「葛城さん、言葉が過ぎますって」 「そもそも、本当に二十年近くも殺人が起きなかったのかねえ。そんなこと、信じられるか?人間の住む場所では必ず諍いが起きるのが常だろう」  守谷は町の象徴でもある、天使の像が建っている教会の写真を見る。 「この町の住民はクリスチャンが多いんですか?」 「さあね。とりあえず、まずは役場で聞き込みだ」  会計課の課長、つまり、高岡憲弘の直接の上司は、彼が殺人罪で捕まったことに動揺を隠せずにいた。 「課長さん、まだ完全に高岡が殺人罪と決まったわけではありません。彼の供述には矛盾がありましてね。で、率直に伺います。高岡さんはどんな人ですか?」と葛城。  課長は頭に天使の環っかが見えるほど、温厚そうな顔をしている。守谷は思った。僕の上司である葛城とは大違いだ。
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