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「守屋くん、君の意見を聞かせてほしい」  守谷は手帳を広げて、葛城を見据えた。 「はい。わたしが思うに、高岡憲弘が母親を衝動的に殺害したとしても、遺体を川に投げ込むなんてしないと思います。聞くところによると、高岡憲弘は真面目で、正義感も強く、何より曲がったことを嫌う人間のようです」 「ふーん。随分、優等生的な答えだね。でもな、真面目で正義感の強い人間ほど、性質が悪いものはないぞ。箍が外れたら暴走するんだ」 「はあ...」 「いいか。俺はな、聖人君子のような人間はいないと思ってる。いいことを教えてやるよ。ほら、中国から謎のウィルスが発生した時、爆発的な感染を恐れて、政府が市や町をロックダウンしただろ。その時、ある町は感染者ゼロをキープしていた。それが町の誇りでもあった。だがな、その町はついに感染者を出してしまった。感染したのは、一人の老人だった。町は感染者を出してしまったことに慌てた。老人は町の栄誉を汚したからな。さて、町は老人をどうしたか?町ぐるみで老人を安楽死させて隠蔽したのさ。だからな、この事例にあてて考えてみると、高岡憲弘は人殺しを隠蔽するために、母親が自殺したように見せかけた。だって、殺人なんてしたことがバレたら、町の名前を汚すことになるからな。だが、高岡は曲がったことが大嫌いなゆえに、殺人を自供した。ざっとこんなストーリーだ」 「なるほど。でも、葛城さん、それって先入観じゃないですか?」  二人の前に二膳のざる蕎麦が置かれた。 「人なんて、化けの皮を剥がせば皆同じだ。刑事生活十五年の俺が言うから、間違いない。はよ、食べろ」
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