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 高岡憲弘には借金があった。  憲弘は株売買に手を出して、大損していた。  役場だけでの給料では借金を返せず、金策に走り回っていた時期もあった。  身重の母親は脚を怪我してからは塞ぎがちになり、そのうち、寝たきりになる気配があった。  そんな中、甘粕町長はテーマパーク建設に向けて動き出していた。  円寿町のシンボルであり、町の歴史を見てきた教会は、町の心臓でもあった。それを他所から来た町長が掠め取るなんて、町民にはきっと耐えられなかっただろう。  そして、町民が出した答えは、町長の名前に疵をつけ、イメージダウンを図ること...。  町の人たちからしたら、蟷螂の斧かもしれない。だけど、彼らにもプライドはある。  そこで白羽の矢が高岡憲弘に立った。おそらく、町の人たちが高岡憲弘の借金の肩代わりを申し出たのだろう。その見返りとして、殺人犯になること。  まさしく、町にとっては大きな賭けだった。殺人事件を起こすことで町に悪いイメージを植え付ければ、町長も考えを改めるかもしれないという淡い期待を抱いてのギャンブル。  その代償はきっと大きいかもしれない。だけど、教会を守るために町民が防波堤にならなければならない。血を流す人間が必要なのだ。  高岡憲弘は自身がそれに相応しいと考えたに違いない。多分、町民からのお金を借金返済に回していた可能性もある。なぜなら、彼は会計課に在籍していたからだ。  すでに犯罪に手を染めていたのかもしれない。犯罪に無縁な町での、横領という犯罪は少なからず、町の汚点であり、それに対する贖罪は町民のために自身が犠牲になることだ。
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