抱えてるその声が届くまで

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抱えてるその声が届くまで

 この人はまだ。この人ももうちょっと。あの人はイケるかも?手に持ってるのも似てるし!  思い切って声を出す。  ――あなたが求めてるモノはわたしの中にありますよ!  1回で気づいてくれる人もいれば、何度も、それこそ枯れるほど声をかけても気づいてくれない人もいる。気づいてくれた!と思ったら、隣の子を手に取っちゃうなんてこともよくある。  けど、しょうがない。  ここに並んでるみんなはわたしの仲間。助け合ったり、励ましあったり、なんてすることはないけど、わたしは勝手にそう思ってる。だから手に取ってもらって、どこかにいなくなったら、寂しい反面、「よかったね!」なんて他人事なのに嬉しくなってしまう。もちろん、できることなら声をかけた人には、ほかの子じゃなくてわたしを選んで欲しいけど。  でも、わたしたちには伸ばす手はないし、追いかける足もない。そもそも「動く」なんてこと自体あり得ない。できることはただ「伝える」だけ。数年、数十年、数百年、ときには数千年の時間を越えて残された言葉を、意志を、想いを。ぜんぶ伝えるだけ。  声をかけた人が近寄ってきて、さっと眺めていく。  このときが勝負のときであり、一番緊張する時間。  視線が通り過ぎて、足音も遠くへ行ってしまった。  あらら……残念。きっとキミに合ってたと思うんだけどな。  わたしには聞こえないけど、きっと隣の子もわたしと同じように声を出してたのかもしれない。隣も向こう側にいるあの子も、お互いに声は聞こえないけど、きっと同じように通りがかる人に声をかけてるからわかんなかったのかな。  行っちゃった人のことは忘れない。また来てくれるかもしれないから。  そうしてわたしはまた次の人に声をかける。  わたしの声が運命を変える一助になりますように――。
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