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探索開始!
翌日、ミステルは行動を開始した。秘策などない。この城塞が何階建てなのかを含め、部屋を片っ端から調べていく――それしかない。
ミステルは、革袋の中から細い杖を取り出した。彼女の手首から肘までとほぼ同じ長さの褐色の杖には、握り手のところに薄紫色の石が嵌め込まれており、石の内部に古代魔術で使う紋様が封じられている。彼女は萌黄色のワンピースの上に羽織った青いジレの内ポケットに杖を隠した。
「さぁ、行くぞ!」
気合い十分に部屋を出る。通路は左右に伸びており、片側には扉が、反対側に嵌め込み窓がズラリと並んでいる。階段は、ここより左に2つ先の部屋の向こうに見える。通路を照らしている壁掛けのランプを外して持つと、左隣の部屋の扉を押してみる。
――ギィ……
鍵はかかっておらず、ランプに照らし出された室内は、広さも簡素な調度品もミステルに与えられた客室とまるきり同じだ。物を隠すとしたら、ベッドのそばのランプ台か、その横のクローゼットしかない。探索は、ものの5分で終わった。それでも念を入れて、テーブルや窓の周辺を調べたが、トータル10分で探す場所がなくなった。
「まぁ……最初から見つかるとは思っちゃいないわよ」
肩透かしを食らった感が否めないが、気を取り直して、更に左隣の部屋へ行く。ここも、鍵は開いており、未使用の客室だった。
通路に戻り、階段を調べる。元々城塞として造られたからだろうが、なんの装飾もなくてつまらない。階段の先に目をやると、右に緩くカーブした通路が続いている。右側に扉、左側に窓という配置は一緒だ。
ミステルは階段を通り越して、隣の部屋の扉を押した。やっぱり扉は素直に開いて、これまでの部屋と同じ広さで同じ調度品だ。思うに、この階はここで暮らした人たちの生活の場、宿舎のように使われていたのかもしれない。
左へ左へと部屋の探索は続けられ、いい加減飽きてきた頃、通路の先に階段が見えた。もしや、と思いつつ更に進んでいくと。
「あたしの部屋だ」
胸ポケットに入れた懐中時計を出すと、約3時間経っている。ひと部屋10分かけて、調べた部屋数はちょうど36。
「まぁ、なんて計算通りかしらね」
呆れたように自嘲して、自分の部屋を通り過ぎる。
「ミステル様」
「ひゃっ?!」
背後から呼ばれて飛び上がる。フルフルがそこにいた。いつの間に近づいていたのか、足音も気配も感じられなかったのに。
「間もなく昼食のお時間です。ひとまず中断して、食堂にお越しください」
「あの……お食事は、必ずカルドー様と一緒に取らなければいけないのでしょうか」
「はい」
直立していた青年は、質問の意味が分からないといった表情で小首を傾げた。
「あたし、時間が限られているんです。お昼はパスしても」
「それはなりません。カルドー様のご希望ですので」
青年の漆黒の瞳がキラリと光った。仕方ない。時間は惜しいが、主の機嫌を損ねて追い出されたら、元も子もない。
「分かりました」
夕食のあと、夜中も調べればいい。カルドー様がいる部屋はここより上の階だから、下の階に行けばうるさくないだろう。
ミステルは即座に頭を働かせて、大人しくフルフルに従った。
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