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魔女というものは
「バカな子だねぇ……こんなところで魔力を放ったりして」
青白い顔で床に倒れているミステルの目に、ゆっくりと螺旋階段を下りてくるカルドーが見えた。左肩には大きなカラスが止まっている。
「あたし……なにが起きたの?」
全身から力が抜けている。魔力のゲージは恐らく0、口を利くのも気怠い。
「ここには、私が生涯かけて集めた魔導書、魔道具、秘薬の素材……魔力の源を収めてある。魔女の命と言ってもいい。そりゃあ、高度な封印を仕掛けるだろ。お前程度の小娘が使えるような普通の解錠魔術で開くと思ったのかい?」
そうだ――倒れる前の記憶をミステルは思い出す。螺旋階段を下りきった底の階に、魔術で封じられた“見えない扉”があった。恐らく探し物はこの中だ。確信した彼女は、自分が知っている中で1番高等な“解錠”の呪文を唱えた。ところが、杖から魔術が放たれるや否や、魔法の光が雷に変化して、術者本人に跳ね返ってきた。避ける間もなく衝撃を食らい、ミステルは一瞬で弾き飛ばされてしまったのだ。
「全く。この書庫に入れてやっただけでもお情けだよ」
カルドーは、やれやれと首を振る。床まで下りずに4、5段上に腰かけて、左肩を軽く動かした。カラスがバサリと舞い上がると、空中で黒衣の青年の姿に変わり、音もなく床に降り立った。
「フルフル」
「はい、カルドー様」
主が投げた小瓶を片手を上げて受け取ると、青年はミステルに近づき、片腕で抱き起こした。もう一方の手で小瓶の蓋を器用に開け、半開きの唇の隙間に中の液体を流し込む。ミステルは軽く噎せ、数回咳をして――。
「回、復薬……?」
濡れた唇をペロリと舐める。その舌も唇にも血色が戻り、頬に瑞々しい生気の色が差す。
「これは……こんな即効性の高い回復薬は知らない……この味も初めてだわ」
「私のオリジナルだからねぇ。もう動けるだろ? 戻るよ!」
カルドーは立ち上がると、ドレスをパンと叩いて埃を払う。みるみる力が甦ったミステルは、足元に転がっていた杖を拾うと、青年の手を借りずに自力で立ち、彼らのあとを追った。
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