魔女というものは

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「母親が病だというのは嘘だね? 本当の目的を白状おし」  カルドーの部屋に入った途端、ミステルは見えない縄に捕らえられ、木の椅子に括り付けられた。座った姿勢から立ち上がることが出来ない。 「ふん。エキドナに与えられた課題なんだろう? のお嬢ちゃん」  桃色の唇をキュッと結んで睨み返してみるものの、カルドーは涼しい顔だ。しかもミステルの事情など、すっかりお見通しらしい。 「残念だったねぇ。どうしてもリリサングレが欲しいなら、無実の乙女でも攫ってきて、そこの崖から突き落とすといいさ」 「そ、そんなことっ」 「それが嫌なら、もっと修行を積むんだね! ――フルフル!」  魔女がパン、と手を叩く。いつの間にか青年はミステルのローブと手荷物を抱えており、それらを彼女の膝の上に置いた。革袋がやけにぺちゃんこで軽い。ミステルの表情がサッと強張る。 「この中の素材はどうしたの?!」 「回復薬のお代にいただいたよ。あんなものじゃとても足りないけれど、エキドナに免じて負けとくさ」 「そんなっ! 散々苦労して、やっと集めてきたのに!」 「集め直しも修行だよ」  カルドーは、くっくっと喉の奥で嗤う。 「フルフル」 「やだ、なにするの!」  魔女の合図で青年は大きなシーツを床に広げた。シーツは波打って、椅子の下に潜り込むと、四隅がクルンと持ち上がり、ミステルごと包み込んでしまった。結び目に「エキドナ様」と書かれた宛名タグがぶら下がっている。 「またおいで――ミステル」  カルドーがウィンクすると、張り出し窓がバタンと開いて、窓枠がグニャリと大きく広がった。ミステルを閉じ込めた白い包みは、ピューッと外に飛び出して――遥か遠く見えなくなった。 「良かったのですか、カルドー様」 「私のあとを継がせるには、まだまださ」  十数年前、カルドーは素材集めの旅の途中で一粒種を得た。生まれた娘はミステル(ヤドリギ)と名付けられ、カルドーが認める最も有能な親友(ライバル)に託された。 「お茶を入れとくれ、フルフル」 「かしこまりました」  魔女は窓辺に佇むと、“処刑台”を煌々と照らす蒼の月を見上げて静かに微笑んだ。 【了】
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