176人が本棚に入れています
本棚に追加
「身近にこんないい人いるんだから、サクなんて辞めればいいのに」
送るという提案を断ったユナちゃんが帰り支度をしている横で一誠さんも靴を履いている。今から事務所に戻るようだ。
「だってクズじゃん」とユナちゃんは髪を軽く一纏めにして言った。
「ユ、ユナさん」
「サクは顔だけ。でもあの顔が神がかっててタチが悪い〜本当好き」
「ちょっと」
「植草さんも正直あの顔好きでしょ?」
「あの、えっと」
保護者の前で恋バナなんてやめて欲しいのに、「サクとは?」と興味を持った一誠さんにユナちゃんがニヤついた。
「学校にイケメンがいるんですけど、名前がさくま—」
「一誠さん!!」
ユナちゃんの言葉を慌てて大声で阻止する。あまりの大きさに2人とも動きを止めて私を凝視した。
「ど、どうしたんですか菜乃花さん」
「耳イタ」
「一誠さん、早く事務所行かないとまた怒られちゃいますよ」
そう急かせば、腕時計を確認した彼は「あぁ、そうですね。ではお先に」と慌てて去った。その後ろ姿を見送ってそっと胸を撫で下ろす。
一誠さんには知られたくない。
青くんが学校にいる事。再会してしまった事。
彼にはこれ以上心配をかけたくない。今だって身に過ぎるほどよくしてもらっているのに。こんな風に穏やかに暮らせるのは全て一誠さんのおかげなんだから。
最初のコメントを投稿しよう!