陽だまりの午後

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 「頸動脈が損傷してる」  「頸動脈を結ぶしかない」  「脳への血流が止まるぞ」  「後遺症が残る」  「だが今すぐに決断しなければ、手遅れになる」  そこでおばあちゃんの声が聞こえた。  「このままだと死ぬんですか」  なにも言わずうなずく先生。  その言葉の先で、亮平はただ頷いてた。  先生たちは頸動脈を結束する準備を始めた。  目を閉じる準備ができていない。  私たちは、まだ、目を開けていなければならない時間にいる。  朝焼けの日差しに手を伸ばして見てた。  雨上がりの街。  雫が道路の水溜まりの上で跳ねる。  揺れる感情の奥底で、必死に手を伸ばして見てた。  まだ間に合う。  また、必ず朝が来る。  雲は晴れ間の下を通って、街の地面の上に影を運ぶ。  颯爽と吹き抜けていく音。  地面のすれすれを飛んでいく、——海の匂い。  ベットのシーツをはぐって、全開に開いた部屋のカーテン。  窓を開けると優しいそよ風。  まるで世界が一番近いところで、鮮やかな光を届けているかのように。  「外傷室へ連れて」  「心配停止。急いで!」  「マッサージ…!マッサージ!」  「どいて!」  「電力を上げる」  「1、2…」  何度も、何度も話しかけてた。  明日には晴れるって。  雨は、もうすぐ明けるって。  雨上がりの雲はいつもよりすこしだけ、高かった。  新しい朝の日差しは、いつもより少しだけ眩しかった。  ねえ、亮平。  肩に力を入れる先に指。  頬をさする。  肌に温もりを感じる。  指の先、見慣れた白い肌。  病室の暖房はよく効いていて、ペットボトルの水はカラカラになった。  夜通し聞いていた、何気ないNHKの番組も、いつの間にか朝のニュースを取り上げている。  夏はもうすぐ秋を迎える。  その季節の変わり目に咲いた、彼岸花。  病院の廊下でカツンカツンという靴の音が聞こえる。  少しだけ背伸びして、部屋の外に出よう。  少しだけ大きめにアクビして、何気ない朝に挨拶を交わす。  ねえ、亮平。  急がなくて大丈夫だから。    バイクの音が聞こえている。  一本調子に回転を上げる。  この街一番の低い音が、須磨の海のさざ波の下でレスポンスする。  一本の道と青い空。  その中心をかけ抜けるのは、ロングストロークと、700ccのエンジン。
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