2人が本棚に入れています
本棚に追加
怒鳴り散らすように。
宛のない返事を待つように。
亮平が目を覚まさないこと。
それが彼に会わない理由にならないのはわかってる。
だけどどうしようもないこの心が、峠を越えないまま、今も変わらずに待ち続けてる。
彼の帰りを。
「どんなスピードで走っても、もうあんたの願いが届かないとしたら」
私はハッとしたようにキーちゃんを見た。
でもそれは、今までの自分が間違っていたことを自覚したからじゃない。
むしろそれは、反論だった。
願いがもう届かないっていうことを、心から否定したい衝動だった。
「キーちゃんはそう言うけど、私は待っていたいんや。あの日、あの事故に遭った後の電話で、彼は私に何かを言いかけた。未来から来たこと。違う世界から来たこと。そんなバカみたいなセリフが、耳の中に残ってる。だけど…」
あの日、彼からの電話。
雨が降る前の街の喧騒。
聞き慣れたメロディー。
プルルルルル……ピッ
「…よぉ、楓」
「どうしたん?」
「ちょっとしくじってな…」
「しくじったって、…なにを?」
「…まあ、こうなることは運命やったんやが…」
「…は?何言ってんの?」
「…足が動かんのや。でも、大丈夫やから」
「足…、場所は?事故ったの!?」
「今高速道路にいる。救急車も呼んだ」
「今は一人?」
「…いいや、友達がおる」
「亮平、今教室を出た。先生にも言った。母さんにも今から連絡する!」
「楓…」
「もしもし、もしもし!」
「…楓、よぉ聞いてくれ。この前言ったことを覚えとるか?」
「…この前?」
「一緒に岡山に行ったやろ」
「…ああ、うん」
「説明が足りんかったのは謝る。誰だって信じられんよな。あんな話」
「…ええから、今は喋らんほうがええって!」
「最後かもしれんから、ちゃんと聞いてくれんか?」
「…最後とか言うな!今行くから!」
「俺からの頼みや。聞いてくれ」
「………何?」
「俺は未来で、ずっとお前を探してた。諦めとったんや。どう頑張っても、お前がいなくなる世界しかなくて」
「私が…?」
「この世界できっとお前は、幸せになれる。それは確かや。ようやく方法がわかったんや。せやから、心配いらん」
「…何、…言って」
「俺のことはもうほっとけ。俺たちは最初から、出会う運命になかった」
「…ほっとけるわけないやろ」
「ハハッ。どうせ俺のことなんてすぐに忘れるくせに」
「アホなこと言っとらんと、安静にしときぃ!」
「…もし、俺の身に何かあったとしても、大丈夫や。お前はこれから先、明るい未来が待っとる。俺が保証する」
「…」
「ただ、一つだけ言わせてくれ。俺は…」
最初のコメントを投稿しよう!