陽だまりの午後

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 私は決心がつかないまま、家に帰った。  乾いていない洗濯物。  脱いだスニーカーが玄関の床で乱雑になる。  ソファに座って、何の気なしにテレビをつけてもただモノクロに音が流れる。  朝からテーブルに出しっぱなしのパンは、乾燥してもう食べれないみたい。  シャワーを浴びた先で何もかもがしおらしくなる。  ドライヤーのコードを引っ張って、口に咥えたヘヤピンを後ろ髪に取り付けながら、冷房をつけた。  かびくさい臭い。  キーちゃんの言っていることはもっともらしくて、心が宙ぶらりんになったまま動けない。  だけど揺らいでいるのは、彼に対する気持ちなんかじゃない。  部屋に帰って、机の上で日記を広げて、ある日のメモを見返してた。  その日記の所有者は亮平だった。  別にその日記には、彼の日々の出来事が記されているわけじゃない。  ただ、託されたんだ。  岡山に連れられた後、彼は家に帰って、この日記を渡してきた。  この世界のことと、彼のいた世界。  その両方が記載された難解な文字の中には、信じられないことが書かれていた。  未来のこと。  阪神淡路大震災の日に、起こったこと。  理解できなかった。  そこに書かれていることは、おとぎ話みたいにぶっ飛んでた。  信じるつもりはなかった。  信じようにも、内容が内容だったから。  何ページかを流し目で広げて見ていたら、あるページに目が止まった。  「シリンダヘッド、加工」  思い立ったように殴り書きされた文字。  亮平、ほんとにバイクが好きだったな。  好きなところに行くとき、何かを買いにいくとき、お気に入りのバイクに乗って、エンジンを吹かして。  自分で改造したって言ってた。  彼の家はバイク屋を営んでたから、多分その関係で。  その走り書きの文字を辿って、シリンダヘッドについてネットで検索しながら、家の外に出た。  シャッターをあけて、倉庫の中に入る。  あちこちに埃が舞って、息ができないくらい空気が錆び付いてる。  倉庫の奥に赤色のカバーが見えた。  ぶ厚い、ごわごわしたレインカバー。
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