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「おい、楓!」
…え?
シャッターの向こうで、声が聞こえる。
男の人の声が聞こえた。
…誰だろう
父さんが帰ってきたのかな?
いや、でも、こんな時間に…?
外に出ると、奇妙な景色が広がっていた。
赤茶けた夕暮れ時の街と、ヒグラシの声。
空を見上げると、見たこともないような「線」が、世界を真っ二つにするように走っていた。
「…何…あれ…」
それはまるで、空に亀裂が入っているかのようでもあった。
線の内側は星空のように暗くて、深く窪んでいる。
ほんのりと青白い空の色に、対照的な黒。
…あり得ない
率直な感想だった。
線は、端から端まで続いていた。
空を二分しているようでもあった。
…一体、何が…
呆気に取られている後ろで、声が聞こえてくる。
さっきの「声」だ。
「なにぼけーっとしとんや」
その声が、鼓膜の内側をくすぐる。
さっきよりもずっと近くて、それでいて、ハッキリしてて——
「…え?」
目を疑った。
疑う以外になかった。
何が起こってるのか、すぐには理解できなかった。
こんなところにいるはずがない。
彼なわけがない。
咄嗟に、そう思った。
「俺を呼ぶのはええけど、次からは100円な?」
昔のように軽快なトークで、玄関前に立っている。
見慣れない自転車。
日に焼けた肌。
髪型も。
らしくない、その格好も。
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