夏の終わりに

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 私は揺れる電車の後部座席の隅で、昔のことを思い出していた。  謝りたい言葉。  声に出して伝えたい思い。  あれから、もう随分と時間が経つ。  2年前に起きたこと。  2年前のあの日に、「世界」が変わってしまったこと。  そのことを後悔していないと言えば、それはきっと「嘘」になる。  進んでいく電車の車輪の音は滑らかに私たちを運んでいった。  時速80キロで進む車体。  カラフルに色づいた神戸市内の繁華街。  キーちゃんはお腹空いてないの?と心配しながら私の口にポテチを運んでくる。  私はそれを頬張った。  コンソメ味が嫌いなわけじゃない。  塩よりもコンソメ。  しょうゆよりもコンソメ。  でもどうせならじゃがりこが良かった。  口にポテチをいっぱいにしてからそう思った。  頬張りながら、キーちゃんに「次の駅で降りよう」と言った。  驚いた表情だったのは、私だった。  すんなり言うことを聞いてくれるキーちゃんが、すごく意外で、てっきり早く病院に行こうよ!と催促されるのかと思った。 三ノ宮を過ぎて、六甲道という駅で降りた私たちは、降りたこともない駅と初めての街並みに戸惑いながら、どこか静かに休めるところがないか探した。  「ごめんね突然」  私の身勝手で目的を頓挫させてしまったことを謝る。  キーちゃんは大丈夫と頷いて「うなぎが食べたい」と言い出した。  うなぎなんてどこにあるんだろうとスマホを開いて探していると、すぐ近くの場所に寿司屋があるのが見つかった。  それならそこにしようよとキーちゃんは言って、私たちはそこに向かうことにした。  私が突然電車から降りた理由を、キーちゃんは聞かなかった。  朝、友達から電話があって、どうしようと迷っている私の手を引っ張って家を出る。  自転車に乗って、路地を曲がる。  駆け足でここまで来た。  後ろを振り向くことはなかった。  西宮行きの片道切符と、握りしめた地図。  このやり場のない感情をどこに向けていいのかわからない。  私は、亮平に会いたくない。  でも、会いたい。  そんな感情の揺れ動きが私の頭の中をぐちゃぐちゃにした。  震える手足がここにあって、それを制御できない時間。  言い逃れのできない緊張が、西宮に近づくたびに大きくなった。
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