甲子園

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 「ほら、これ」  「…何、これ」  「見てわかるやろ」  彼が渡してきたのは、薄汚れたグローブだった。  最初は何か分からなかった。  見た感じボロボロで、すっかり色褪せてて。  グローブだって言うのはわかったよ?  すぐにね。  でも咄嗟のことで、「何?」って思ってしまった。  それが昔使っていたグローブだって、気付かずに。  「…これ」  「お前が持って来いって言ったんやで?」  「私が…?」  「…はぁ、とぼけるのもええ加減にせぇよ」  懐かしかった。  初めて、野球のボールを触った日のことだった。  キーちゃんに誘われて出かけた夏休みの午後。  この須磨海岸の砂浜で、一緒にキャッチボールをした。  雨上がりの空の下。  真夏の日差しが降り注ぐ、穏やかな海辺で。
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