2人が本棚に入れています
本棚に追加
ここじゃないどこかへ
私は亮平のバイクに乗せられて、しょっちゅう須磨海岸の風の中にいた。
亮平は海が好きだった。
「しっかり捕まっとき―や!」
滑走するバイク。
ヘルメット越しに靡く海の景色が、風を切りながら泳いでいた。
必死に亮平の腰にしがみつきながら、海岸沿いを一緒に走った。
揺れるエンジンの音に寄り添う。
亮平の肩越しに見える須磨の水色。
声高々に亮平は前を見てた。
まるで天井のない空を指差して、世界がこんなにも青く色付いていることを叫ぶように、一直線にかけ走る。
エンジンはますます大きく鳴り響いて、澄みきった空気を切り裂いていく。
その清々しい爽やかな風の向こうで、砂浜の磯の匂いは私たちを後ろから追いかけた。
「どこまで行くん!?」
亮平はいつもそれに答えなかった。
私をどこまでも連れ去っていこうとする強気な姿勢は、ホイールの回転に任せて滑らかに地面の上を滑る。
亮平に連れ出されて見た海の景色が、いつもどこかに、明るい世界を連れてきた。
海を渡っていく船の汽笛や、波の音が、いつもこの耳のどこかに聞こえた。
エンジンはまだ切れない。
どこまでも高く鳴り響いてる。
それと同時にアクセルを踏む、スピード。
最初のコメントを投稿しよう!