ここじゃないどこかへ

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ここじゃないどこかへ

 私は亮平のバイクに乗せられて、しょっちゅう須磨海岸の風の中にいた。  亮平は海が好きだった。  「しっかり捕まっとき―や!」  滑走するバイク。  ヘルメット越しに靡く海の景色が、風を切りながら泳いでいた。  必死に亮平の腰にしがみつきながら、海岸沿いを一緒に走った。  揺れるエンジンの音に寄り添う。  亮平の肩越しに見える須磨の水色。  声高々に亮平は前を見てた。  まるで天井のない空を指差して、世界がこんなにも青く色付いていることを叫ぶように、一直線にかけ走る。  エンジンはますます大きく鳴り響いて、澄みきった空気を切り裂いていく。  その清々しい爽やかな風の向こうで、砂浜の磯の匂いは私たちを後ろから追いかけた。  「どこまで行くん!?」  亮平はいつもそれに答えなかった。  私をどこまでも連れ去っていこうとする強気な姿勢は、ホイールの回転に任せて滑らかに地面の上を滑る。  亮平に連れ出されて見た海の景色が、いつもどこかに、明るい世界を連れてきた。  海を渡っていく船の汽笛や、波の音が、いつもこの耳のどこかに聞こえた。  エンジンはまだ切れない。  どこまでも高く鳴り響いてる。  それと同時にアクセルを踏む、スピード。
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