ここじゃないどこかへ

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 分かるはずがないんだ。  私の気持ちが。  引っ込みのつかない気持ちの先で、真夏の夢は掻き消えた。  それでも私の顔を見ながらやさしく、泣くなと言ってくれたよね。  覚えてるよ、あの時の感情を。  なんて厳しいヤツなんだって思った。  自分のしでかしたことや、過ち。  どうしようもないくらいの羞恥心が、自分を殴り倒そうとしているくらい責めて、責めて責めて、それでも行き場がないくらいに追い詰められた心が、涙に変わる。  それを止めろって言うんだもん。  そんなの、できっこないよ。  いっそ、思いっきりビンタしてほしいくらいなのに。  10個数えるから、前を向けって言われた。  目をつむっていてやるから、涙を拭けって言われた。  ねえ、亮平。  いっそ前が見えないままで、あんたの隣に座っていたかった。  「お前のせいで負けたんや」    そう言われたときの悲しさを抱えたままで、くじけそうになる心を抱き締めていてほしかった。    いつもどんなときもそうだ。  私たちは須磨の海の横で、その真正面に広がる青い空に手を伸ばした。  亮平は海が好きだった。  バイクが好きだった。  あの日もそうなんだ。  きっとね。  なにかに挫けそうになったとき、なにかを手に入れたいと思ったとき、心の向かいたい場所。  目指しているところ。  高鳴る鼓動に乗っかって、道路の上をひた走る。  しがみついた私の両手に、大きな心臓の音。  エンジン音と重なった、追い風1.5メートル。  どうしようもなく悔しくて、それでも自分を守ろうとする心がここにある。  しがみついた亮平の背中に乗っかり、夜の街をぐんぐん走る。  海の上で灯台の明かりが水面を泳ぐ。  自分の汚い心をまるで全部知っているかのように、亮平はただ、なにも言わずまっすぐ走ってた。  私の知らないところに連れていこうとしてた。    亮平は知っていたんだ。  ぐちゃぐちゃになった心がどうにもならずに、立ち止まってしまったこと。  それでもなにかにすがり付いていたい気持ちを持っていたこと。  自分が嫌いになるほど醜いのに、なにかに甘えたいと思っていたこと。  ボールを落とした。  友達に言われた。  大切な瞬間に、くだらない感情を持った自分が、心底嫌いになった。  だからどうした?  亮平はバイクに乗りながら風を起こして、私の前髪を拐った。  靡く風の先で涙が乾いていく。  涼しい風が前方からやって来る。  「泣きたいんやろ?せやったらそのまま泣いとれ」  「泣いてなんかない!」  私は大嘘をつく。  震える声の先でハンカチが湿る。  「明日学校なのに、あんま泣いてたら目腫れるで」  「やから泣いとらんって!」  亮平はどこかに行こうとしていた。  ここじゃないどこか。  須磨の海岸を通りすぎて、瀬戸内海の海が見えた。
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