2人が本棚に入れています
本棚に追加
分かるはずがないんだ。
私の気持ちが。
引っ込みのつかない気持ちの先で、真夏の夢は掻き消えた。
それでも私の顔を見ながらやさしく、泣くなと言ってくれたよね。
覚えてるよ、あの時の感情を。
なんて厳しいヤツなんだって思った。
自分のしでかしたことや、過ち。
どうしようもないくらいの羞恥心が、自分を殴り倒そうとしているくらい責めて、責めて責めて、それでも行き場がないくらいに追い詰められた心が、涙に変わる。
それを止めろって言うんだもん。
そんなの、できっこないよ。
いっそ、思いっきりビンタしてほしいくらいなのに。
10個数えるから、前を向けって言われた。
目をつむっていてやるから、涙を拭けって言われた。
ねえ、亮平。
いっそ前が見えないままで、あんたの隣に座っていたかった。
「お前のせいで負けたんや」
そう言われたときの悲しさを抱えたままで、くじけそうになる心を抱き締めていてほしかった。
いつもどんなときもそうだ。
私たちは須磨の海の横で、その真正面に広がる青い空に手を伸ばした。
亮平は海が好きだった。
バイクが好きだった。
あの日もそうなんだ。
きっとね。
なにかに挫けそうになったとき、なにかを手に入れたいと思ったとき、心の向かいたい場所。
目指しているところ。
高鳴る鼓動に乗っかって、道路の上をひた走る。
しがみついた私の両手に、大きな心臓の音。
エンジン音と重なった、追い風1.5メートル。
どうしようもなく悔しくて、それでも自分を守ろうとする心がここにある。
しがみついた亮平の背中に乗っかり、夜の街をぐんぐん走る。
海の上で灯台の明かりが水面を泳ぐ。
自分の汚い心をまるで全部知っているかのように、亮平はただ、なにも言わずまっすぐ走ってた。
私の知らないところに連れていこうとしてた。
亮平は知っていたんだ。
ぐちゃぐちゃになった心がどうにもならずに、立ち止まってしまったこと。
それでもなにかにすがり付いていたい気持ちを持っていたこと。
自分が嫌いになるほど醜いのに、なにかに甘えたいと思っていたこと。
ボールを落とした。
友達に言われた。
大切な瞬間に、くだらない感情を持った自分が、心底嫌いになった。
だからどうした?
亮平はバイクに乗りながら風を起こして、私の前髪を拐った。
靡く風の先で涙が乾いていく。
涼しい風が前方からやって来る。
「泣きたいんやろ?せやったらそのまま泣いとれ」
「泣いてなんかない!」
私は大嘘をつく。
震える声の先でハンカチが湿る。
「明日学校なのに、あんま泣いてたら目腫れるで」
「やから泣いとらんって!」
亮平はどこかに行こうとしていた。
ここじゃないどこか。
須磨の海岸を通りすぎて、瀬戸内海の海が見えた。
最初のコメントを投稿しよう!