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駅の移動用魔法陣が機能停止した。
その情報を受けて、友人のトレフル・ブランが真っ先に行ったことは宿の確保である。
「主要都市で交通網がまひしたらシャレにならない。魔法陣に頼りっきりでほかの交通手段が発達していないんだから」
経験者の言だった。過去に、師匠とともに旅をする中で似たような出来事があったのだという。
おかげで、ユーリたち三人は今夜の寝床に困らなくて済みそうだ。ホテルを出て行くとき、数組の客が一度にやってきて、空室状況を確認しているのが見えた。もちろん、ユーリたちはチェックインを終えて観光のために宿を出るところだった。
旅のメンバーは三人。
まずは、ユーリ・フラームベルテスク。19歳。創世の家門フラームベルテスク家の傍系である。特徴的な赤い髪は癖っ毛で、背中であちこち跳ねるので三つ編みにしている。黒いインナーとズボンに茶色いブーツ、そして毛皮のついた赤いコートを羽織るという派手な格好だが、下品にならないのは落ち着いた黒い瞳とさわやかな笑顔のおかげだろう。大家族の長男として生まれたユーリは、とても人当たりのよい性格だった。それでいて華やかな顔立ちをしているものだから、当然、女性に好かれる。
今も、石造りの大通りを歩くユーリに、多くの女性たちが関心を寄せていた。正直、悪い心地はしない。人に嫌われるより好かれる方がずっといいと思っている。
そんなユーリとは対照的に、わずらわしそうに女性たちの視線から隠れる同行者の名をトレフル・ブランと言う。
彼に姓はなく、トレフル・ブランという師匠にもらった名前を大切にしている。この度、いっしょに初級魔導士試験を受けた仲間である。
硬い鳶色の髪を耳に軽くかかる程度にカッティングし、左手に持つ本の文字を追う瞳は深い森のような緑色。ユーリより背は低いが、16歳という年齢ならばそのくらいだろう。なかなかのハンサムだとユーリは思うが、もうひとりの同行者であるキーチェに言わせれば「ただのめんどくさがり屋」で、本人もそれを認めている。
この町に来てから、腰までカバーする緑色のポンチョと暗い色のズボン、ベルト、ブーツを着用している。ポンチョは高級な厚手の生地で、ベルトとブーツにも銀の装飾が施されている。これはめんどくさがり屋のトレフル・ブランの意志ではなく、キーチェがコーディネートした結果の産物である。
キーチェ・アウロパディシーは15歳。一行最年少の女性で、最も美容と礼儀にうるさく、同行者が無精をしていると細い眉を吊り上げて怒る。ユーリからすれば、4歳年下である彼女が怒っても妹のように可愛いだけだが、トレフル・ブランは口うるさく言われるのが苦手なようで、このところきちんとした身なりで旅をしている。
キーチェ自身は、月光色の金髪と宝石のような紫紺の瞳を持つ、細身で背の低い美少女だ。ただし気の強さは人一倍である。
袖と襟に刺繡がほどこされた青系のダブルボタンジャケット、滑らかな素材の黒いミニスカートにタイツ、動きやすい高さのヒールの青い靴を履いている。ヒール部には螺鈿の細工がある。細かいところまでオシャレ心を忘れない。
「ここのようですわね」
地図持ったキーチェが、白い壁、黒っぽい屋根の建物を見上げた。窓枠の中でたくさんの人たちが行き交っているのが見える。
三人が探していた郵便局だ。このたび、キーチェの里帰りのために魔導士協会本部のあるトラモンティン共和国から離れることになったが、当初の予定より日程が延びそうなので本部に連絡を入れることにしたのだ。
魔導士とは、魔法が使える者の中でも、試験を突破し正式な認定を受けたものを指す。世界で通じる資格であり、駅や郵便局、役所など身近なところでも働いている。通信・物流などの分野で、一般にも魔法は重宝されているのだ。
「大勢で入っても混雑するだけだから、またあとで会いましょう」
とキーチェに追い出されたユーリは、また友人と連れ立って通りを歩いていた。キーチェがやや方向音痴であること、それを隠したがっていることを、ユーリは知っていた。
混みあっている場所に行かずに済んだことで友人のほうは機嫌がよさそうである――無表情なので分かりにくいが、それなりの付き合いを経て感じられるようになってきた。
「暇になったね。夕食までは時間があるし、どうする?」
「じゃあ本屋にでも行こう」
というセリフの途中で、トレフル・ブランの足はもう本屋の看板に向けて舵を取っている。予想された返答だったので、ユーリもおとなしく後に続いた。
(なんだかご機嫌なのは、本屋さんを見つけた影響もあったのかな)
紙とインクの独特の匂いがする静かな空間だった。ランプは薄暗いが、本のタイトルくらいは読める。店主はあまり陳列に関心がないのか、ポップや特集コーナーのようなものは見受けられない。
同行者と違い、さほど本に興味のないユーリは、暇つぶしにぷらぷらと店内を歩いていた。派手なものが好きなので、装丁の美しい本を見つけては少し手に取ってみる。
そんな中で、ひときわ目立つ本を見つけた。
暗い緑色の厚い表紙。そこに、貼り付けられた、手鍛造と思われる鳥と植物のモチーフ。材質は鉄だろうか。蔦が描く円の中、鳥が花をついばもうとしている。ところどころ、葉にまぎれて羽が散りばめられている。
「手が込んでいてキレイだな」
手に取ってみた。当然、ただの紙の本よりずっと重い。
フラームベルテスクは火の魔術を操る家系。中でもユーリの家は、代々鍛冶屋を営んできた。鍛造品には興味がある。
気が付くと、その本を購入していた。
トレフル・ブランも何冊か購入したようだが、ユーリが手に持っているものを見て少し驚いたようだった。
「珍しいね。苦手な薬草学系の本を買うなんて」
「……え、これ薬草学の本なの!?」
慌てて背表紙に書かれたタイトルを読むと(これまで装飾ばかりに目がいっていた)、『生活に役立つやさしい薬草学』とある。
「買ってしまった……自己都合で返品したら怒られるかな?」
「やさしい、って書いてあるんだからとりあえず読んでみなよ。ユーリが必要ないなら、俺が買い取るからさ」
トレフル・ブランは親切ぶって言っているが、実は本人がこの本に興味があるだけだということ、ユーリはよく分かっていた。
* * *
とりあえず宿に持ち帰った『生活に役立つやさしい薬草学』は、意外と早くに生活の中で役に立った。
「人ごみで、喉が痛い……」
と、同じ部屋を使っているトレフル・ブランがぼやいたとき、ユーリが読んでいたのは「風邪の引き始めに――喉にやさしいユーカリ精油」というコンテンツだった。
ユーリは、自他ともに認める薬草音痴である。どの植物もすべてただの葉っぱに見える――薬草だの毒草だの言われても区別がつかない。よく食べる野菜なら一応見分けられる、と思う。
5回受けた見習い魔導士試験で4回、医学・薬草学の筆記・実技とも落第している。ほかの科目の成績は良いほうだった。だがトレフル・ブランが助けてくれなければ、今年も医学・薬草学の試験を乗り越えられなかった可能性は高い。
先だっても、魔導士協会から苦手な薬草学の課題が出されたが、イヤイヤどうにかこうにか乗り切ったユーリは「しばらく葉っぱなんて見たくない」と思っていたが、手にした本に喉の痛みを和らげる方法が載っていて、トレフル・ブランが趣味で薬草(だけではないけれど)を持ち歩いていることも知っている。となれば、無視するのはいけないだろう。
「トレフル・ブラン。ユーカリの葉、持ってる?」
あるよ、と返事があったので、ユーカリの香りを蒸気吸入すると喉が楽になるよと伝える。
「なるほど。じゃあ……乾燥させたユーカリの葉、火の結晶、三脚、フラスコをたくさん……」
「え、待った! ひょっとして精油を作るところからやるの!?」
トレフル・ブランは、第二の布袋と呼ばれる魔道具から色々な実験道具を取り出す手を止めた。
第二の布袋とは、袋の入り口を通る大きさのものならなんでも入る魔法の道具だ。重量は加算されないが、容量と内容物の品質維持に関しては、製作者の腕前によって異なる。
なお、この第二の布袋になんでもかんでも詰め込んで持ち歩くのが、トレフル・ブランの趣味のひとつである。
「ユーカリを採取するところからやりたい?」
「いや……というか、作るのは俺なのかな……?」
ユーリが及び腰になっていると、珍しくトレフル・ブランが微笑んだ。
「友人想いの友人を持って嬉しいよ」
そう言われては、嫌だとも言えない。結局のところユーリはお人好しなのだ。
後からこの話を聞いたキーチェに「彼なら、用途に応じた煎じ薬くらい持ち歩いてますわよ、絶対」と言われショックを受けたユーリだが、この時は思い至らなかった。
結局その後、大量のユーカリを熱し、冷却装置を通して精油と蒸留水に分ける――という作業は夜更けまで続いた。夕食を挟んだためかなり時間はかかったし得られる量も少なかったが、スッキリと爽やかな香りが部屋中に広がり、達成感を味わうことが出来た。
「うん、喉がスッとする。ありがとう」
友人にそう言われて気分が良かった。
そして、キーチェもたいそう喜んでくれた。
「まぁ! 手作りの化粧水。とっても素敵な香りですわね」
渡された小瓶のふたを開け、うっとりと香りを楽しむ。
「石鹸も作ってみたんだ」
「あなたが作ったんですの? やれば出来るじゃありませんか!」
蒸留水がたっぷりと余ったので精油を加えて化粧品を作ってみたのだ。すごく上から目線で褒められるが、悪い気はしない。
(なるほど。薬草学は本当に生活に密着しているんだなぁ)
ユーリは満足げに、机に置いた『生活に役立つやさしい薬草学』を飾る蔦の装飾を撫でた。
* * *
駅に設置された移動用魔法陣の修理は長引くらしい。
近隣都市への移動なら馬車を手配しても良かったが、三人の目的地は隣国だ。用事のあるキーチェが「急がない」と言ったので、観光しながら復旧を待つことにする。
ユーリは手慰みに本を読み込んだ。
もともと葉っぱだらけの図鑑は苦手だったのだが、この本はデフォルメされたイラストで、生活に役立つピンポイントな情報が載っている。昔家族がこんなことで困っていたな、とか、これがあれば友人が喜んでくれるかなと想像しながら読むのは、思いのほか楽しかった。
せっかく蒸留装置も作ったことだし、ということで、今度はレモンバームを計量し始めるユーリ。
それを隣で見ていたトレフル・ブランが、そっと火の結晶を取り上げた。
「え。今から使いたいんだけど……」
「結晶なんてなくても、魔法で火を起こせるでしょ。頑張れ、フラームベルテスク家の長男」
そう言ってトレフル・ブランは読書に戻ったが、ユーリは困った。
確かに、ユーリは火の操呪士の家系に生まれ、他の元素よりは火の扱いに長ける。
しかし、派手な魔法を好むユーリは火力重視で魔法を覚えてきたので、繊細なコントロールは苦手なのだ。
火の結晶は消耗性の魔道具のひとつで、魔法使いでない一般人でも割るだけで火を得られるというものである。旅人はたいてい持っているものだが、トレフル・ブランが大量に所持していることを知っているユーリとキーチェは、あえてこれを買うことはしなかったので所持していない。
(買うと余計なお金もかかるし、やってみるか!)
挑戦したユーリは、何度か天井を焦がしそうになってトレフル・ブランに叱られた。しっかりフォローできる体制を取っていた友人に頭が上がらず、こうなったらなにがなんでもやってみせるぞと、ユーリは火の操呪に没頭する。
操呪とは、いわゆる地火風水に代表される元素を魔法を使って制御する術のことで、魔法の根幹を為す。そもそも魔法の定義が、「世界を構成する成分の一つ『魔力』を、人知によって律し、操る方法」とされているのだから。(魔導士協会『魔法全書』より抜粋)
「薬草が苦手、操呪が苦手と言っていては。立派な魔導士になれませんわ。ちょうど時間もあることですし、ここはひとつ彼を鍛えることにしましょう」
朝の紅茶を飲みながら言うキーチェ。
「えーと、それ、俺も協力するの?」
のんびり冷めたパンをかじっていたトレフル・ブランが尋ねると、キーチェはもちろんと頷いた。
「私たちで、彼を立派な魔導士へと導くのです!」
何故か気合いの入っているキーチェにつられ、トレフル・ブランも協力することになった。ユーリがユーカリの精油に成功した翌朝のことだ。
以降ふたりは、何かにつけてユーリが『生活に役立つやさしい薬草学』を手に取るよう仕向けている。
ユーリが天井を焦がさずビーカーも割らずに精油を作るまで、三日がかかった。さらに、生のハーブを自然に近い状態で乾燥させることに二日間を費やした。
「ごめん、トレフル・ブラン……君の実験道具をたくさん壊してしまった。弁償するよ」
ユーリは心から謝罪したが、同時に少し恐怖を感じてもいた。なぜなら、トレフル・ブランはたまにやたらめったら高価な魔道具・呪具を持っていることがあるから。たいていは師匠に譲り受けたものだそうだが、たまに旅の途中で手に入れた掘り出し物も含まれるらしい。また、原料も気軽に提供してもらっていたが、疎いユーリが知らないだけで、実は希少なものも混じっていたかもしれない。いずれにしても高額賠償になる可能性がある。
トレフル・ブランは、ふいとユーリから視線を逸らせた。
「それなら、ハーブを香水にして欲しいな。先生への手紙に添えるから」
ユーリはすぐに無水エタノールを購入し、レモンバームの香水を作って渡した。
トレフル・ブランのもうひとつも趣味は、手紙を書くことだ。魔導士試験の受験のために離れてしまった師匠へ、彼は時折、手紙を送っている。返事は来ない。しかし、届いていることは分かるのだと言う。
「俺は先生の居場所を知らない。それなのに、郵便局から宛先不明の手紙が返ってくることはない。先生の魔法は、本当に魔法なんだ。どこかで俺の手紙を読んでいると思う」
便箋に香水を吹きかけるトレフル・ブランは、誇らしげだった。偉大な魔法使いの弟子であることが、彼の自慢だったから。
乾燥させたレモンバームは、レモンバームティーに使われた。生葉も添えて、透き通ったお茶を楽しむ。これはキーチェからのリクエストだった。なんでも、気持ちを落ち着けるのほかに女性に嬉しい効果もあるそうだ。
「乾燥させたハーブが何種類かあるのなら、今度はブレンドしてみるのもいいかもしれませんわ。ご家族にも差し上げたら喜んでいただけるのではなくて?」
というキーチェの勧めに従い、さらに幾種類かのハーブを乾燥させるユーリ。
火の扱いはだいぶ慎重になり、今度はトレフル・ブランが消火する必要はなかった。
ユーリがラベンダーとマジョラムを調合していると、トレフルブランが手の平より小さな白い石を差し出した。
「これは……石膏?」
「そう。ユーリもキーチェも、こういうの加工できるでしょ。キレイな形にして部屋のインテリアにしたり、薄型にしてクローゼットに置けるようにしたら、家族にもっと喜んでもらえるんじゃない?」
「なるほど! 君は天才だな!」
ユーリに肩を揺さぶられぐらぐらと揺れるトレフル・ブラン。「お礼を行動で表すのはいいけど、こういうのはいらない」とぶつぶつ言いながらベッドに戻っていく。
翌日、キーチェにデザインの相談をし、小さめの安い額縁にステンレスの網を貼って土台とし、布がはためいているようなたイメージの壁掛け石膏像を作ることになった。
「……ふたりとも持ち運びの手間を考えてないでしょ。まぁ俺の第二の布袋が余ってるからいいけどさ」
トレフル・ブランに突っ込まれながら、粉塵の舞う石膏の水溶きをする。どろどろ状態の石膏を、パテや筆を使って土台の上に塗り、火の魔法を使って乾燥させ、彫刻刀で地道に削り、風の魔法で研磨して表面に光沢を出す。
「お! 立体感があっていい感じだ」
「本当ですわね。次はこちらのコースターにも石膏を塗りましょう」
ユーリとキーチェは、小さめのコースターに木くずを並べて花弁の形を作り、上からせっせとも石膏を塗りこんでいった。やがて円の中に薔薇が咲いたデザインのアロマストーンが出来上がる。こちらはクローゼットに吊るして使えるように穴を開け、薄紫色のリボンを通しておいた。
「リラックスできる香りで、デザインも素敵ですわ!」
「本当に。ふたりとも、ありがとう!」
感動するユーリに向かって、トレフル・ブランが図鑑を差し出した。見習い魔導士試験の教科書に採用された古式ゆかしい植物図鑑である。
「ユーリ、これは?」
「……葉っぱ」
「あのね、よく見て。この葉の形に見覚えはない?」
言われてしぶしぶ図鑑を覗き込むと――。
「ミントに見えるけど色が薄くて丸い……あ、レモンバームじゃないか!」
「そうだよ。他のも見てごらんよ」
改めて図鑑のページをめくってみると、ちらほらと知っている植物を見かけた。ハーブを選ぶときに勉強して知ったものがほとんどだが、庭木などで目にしたものもある。
「ね? 思ってるほどややこしいものじゃないでしょ。ユーリの言う『葉っぱ』もさ」
「色んな種類の化粧水やポプリをいただけて、楽しいですわ」
友人たちに褒められて、ユーリは嬉しくなった。
(楽しい記憶といっしょなら、苦手意識も少なくなるものなんだな)
数日後。移動用魔法陣が回復して町を発つことになり、ユーリは再び本屋を訪れて店主に感謝の意を伝えた。
そして、三人の姿は魔法陣の光の中へと消える。
休暇は終わりぬ。これから三人は、別の課題に挑むことになる。
赤髪の背の高い青年にやたらと感謝された本屋の店主は、「はて」と首を傾げた。
「わしの店に、そんな薬草学の本なんぞ置いてあったかのぅ……」
店主が世界中から集めてきたのは、絵本や児童文学、神話や物語だったはずだ。
* * *
朝から昼へと移り変わる時刻。
青い空を背景にたたずむ鐘楼の上に、その人影はたたずんでいた。
金髪とも銀髪とも表現しがたい薄い色の長髪、青空を映し込んだ白い肌、そして遠くを見つめる虹色の瞳……その人が見ているのは、目の前を横切る小鳥の群れでも、ちぎってばらまいたような雲でもなかった。
「手慰みに薬草学の本など書いてみたが、なかなか役に立ったじゃないか」
自画自賛して、気分良く鼻歌を歌う。
左手に持った白い便箋と封筒が、強風ではたはたと閃く。ほのかに香るレモンバームは、その人の上機嫌に拍車をかけた。
その隣で、おとなしく屋根の上にうずくまっていた白い獣が小さな声でつぶやく。
「一人前になるまで帰ってくるなと弟子を追い出しておきながら、師匠があとを追いかけていたのでは意味がないのでは……」
「ん? 何か聞こえた気がするが、気のせいだな。歳は取りたくないものだ」
もちろん、白い獣は何も答えず沈黙を貫いた。
三人のひよっこ魔導士たちがこの国を旅立つ頃には、鐘楼の人影はいつの間にか消えていた。
爽やかな残り香を置き土産にして。
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