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かくして山城家の人間たちは、マツの家を潰すための準備を始めた。
少しでも解体工事の費用を浮かそうと、家の中に放置されている家具などの片づけは自分たちでしようという話になったのだ。
休みの日を利用し、武はもちろん妻や中学、高校生の二人の息子たち、果ては武の両親も手伝って着々とマツの家は中身を吐き出していった。
ようやく全体の半分程度も片づけが進んだ、といった所で息子たちがおかしなものを見つけた。
彼らが片付けていたのは亡くなったマツの部屋で、他の部屋と比べて比較的荒れが少ない場所だった。
「父さん、ちょっと来てほしいんだけど」
「どうした? 何かあったのか?」
武の言葉に二人の息子は顔を見合わせ、何かを言いたげに口をかすかに動かしたが、それは言葉にならなかった。
「とにかくちょっと来てくれよ、見て欲しいものがあるんだ」
武は息子たちの様子に疑問を抱きながらも、額に滲んだ汗を拭ってからマツの部屋へ歩き出した。
家の最奥にあるマツの部屋までは、少し距離がある。
埃が散り積もり、少し腐っているような廊下はぎいぎいと耳障りな音を立てる。
時刻はすでに四時を過ぎており。辺りは夕陽に照らされながら夜の気配を漂わせ始めていた。
割れた窓から差し込む光は、ぞわぞわとするような色味をしており、前を歩く息子たちの背中を怪しく照らしている。
廊下を抜け、マツの部屋に三人は足を踏み入れた。
四畳ほどの部屋にあった家財道具は、すでに息子たちがほとんど運び出しており、部屋はがらんとした寂しい様相を呈している。
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