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「それで……押し入れには何があったんですか?」
廻は襖を開ける所まで話したまま、押し黙ってしまった武に話の続きを促す。
やや不謹慎とも取れる彼の行動は、この場にいる人間なら誰しもが取りかねない行動だった。
推理ドラマで犯人の正体を前に挟まれるCMのように、彼は一番欲しい情報を前にお預けを喰らってしまったのだから。
廻の言葉からほんの少しの間を置いて、武は重々しく口を開いた。
「あれはなんていうんですかね、祠というか……祭壇と言うか……呼び名はともかくとして、あれは間違っても押し入れなんかにあっていいものじゃなかったんですよ」
襖を開いた武の前に現れたのは、小さな祠だった。
木製の小さな家のような形をしており、本来は布団や服などを置くスペースを奪ってまでひっそりと置かれていた。
彼はその祠を見た時に感じた、言いようのない気持ちの悪さを今この瞬間まで忘れる事ができずにいる。
押し入れという極々ありふれた日常をほんの少し彩るに過ぎないパーツが、祠という本来そこにあるべきではない異物と混ざり合った時の気持ち悪さ、気色の悪さは相当のものだった。
そしてその感覚は、話を聞いていた廻にもじんわりと伝わる。
彼は祠を見つけた時の状況が、異様なほど鮮明に想像できてしまった。
夕陽に照らされた廃墟の一室、薄汚れ色褪せた襖を開ける。
その先にある正体不明の祠、それを思い描くだけで何とも言えない気味の悪さを感じ、彼は目元を歪ませた。
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