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洗い物を済ませた後、洗濯物を干し、家の中の掃除をサッと終わらせた二人は居間でのんびりと過ごしていた。
基本的には家事全般は廻の仕事だ、だが今日は義時も手伝ったためいつもより早く仕事が終わったため、のんびりする時間ができたのだった。
八畳ほどの居間で、廻は畳の上にごろりと寝転び、義時はテーブルの上に置かれた麦茶を飲みながら新聞に目を通していた。
「しかしもう九月だってのにまだまだ暑いな、暑さ寒さもなんとやらじゃねーのかね」
「昔と今じゃ気候が全然違うからね、あくまで目安だよ」
「そうは言ってもなあ、もう少し涼しくなってくれればいいんだが」
「そんなに暑いなら倉庫にでも行ってみたらどうだい? あそこに行けば涼しくなるよ。色んな意味でね」
「はは……勘弁してくれ」
そう言って含みのある笑みを浮かべる義時に、廻は苦笑いで答える。
彼らが営む古物店『さやま』、ここでは大きく分けて二つの品を扱っている。
それらを分ける要因はたった一つ、曰く付きかそうでないかだけだ。
何の変哲も無いただの古物ではなく、仄暗い曰くを持つ品々。それらを保管しておくのが、義時の言う倉庫だ。
あそこに収められ、次の引き取り手を待つ品々。
その前に立てば陽光も小鳥の囀りも朝食の香りもかき消され、どろりとした這うような寒気と陰鬱さに押しつぶされてしまうだろう。
「まだ慣れないみたいだね、そんなにあれらが嫌いかい?」
「嫌い……とまでは言わねえけど、苦手なんだよどうしても。慣れそうにねえんだ」
住むところもある、給料も以前の仕事の倍以上は貰っている。
苦手意識のあった接客も、最近は慣れてきた。
だが『さやま』の裏の顔である、曰く付きの品々にはどうしても慣れそうにない。
慣れようと思わなかったわけではない、だがあれらの品が放つ空気に慣れてはいけない、と彼の本能が言っていた。
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