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「ふむ、まあ君はそれでいいよ。前にも言ったと思うけどね、僕は君のそういうまともさ……恐ろしい物を純粋に恐ろしいと思える所を買っているのだから」
「臆病だって事か?」
「言い換えればね、だがそれは君の長所だよ」
褒められているのか、あるいは上手く貶されたのか廻は判断がつかなかった。
のらりくらりとした言い回しは、義時の専売特許であり、その言葉の本意を見抜くのは難しい。
とりあえず考える事をやめ、廻は天井を見上げた。
「そういえば今日の来客の予定は?」
「確か今日は……」
廻は体を起こし、棚に置いてあったファイルを取る。
日付を見て、今日の予定を確認する。
「買うのも売るのもなしだな」
基本的に『さやま』での商品の売買は、表に出ている普通の品を除き、全て予約制になっている。
個人や企業が持ち込んできた数十万、数百万の価値があるかもしれない品を、片手間に扱う事はできない。
必ず日時を決め、その日は来客の予定に合わせて店を早めに閉めたり、逆に遅く開けたりと柔軟に対応する。
店を経営する観点から考えれば、こういった対応はあまり効率的では無いかもしれない。
だが、憧れの陶芸家の一品、若くして亡くなった天才画家の一枚、万人に理解はされなくとも本人にとっては時間と財産を使うに値するだけの熱量が訪れる客たちにはある。
それは売る側も同じだ。
大切な物を売るならその価値が分かる人に、納得する金額で売りたいと考えるコレクター。
あるいは苦しい生活を少しでも好転させるべく、家にあった貴重な品を持ちこむ者もいる。
買うにせよ売るにせよ、そこにはそれぞれの強い思いがある。
それを蔑ろにしては、この仕事は成り立たない、。というのが先代からの教えであり、義時が大事にしている信条の一つだ。
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