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「では山城さん、早速ですが電話で言っていた箱を見せていただけますか」
武は廻の言葉に頷くと、脇に置いていた手提げバッグから小さな箱を取り出し、机の上に置いた。
箱は十センチほどの正方形で、表面には三角や丸を用いた複雑な模様が描かれており、蓋を閉じる鍵の部分には何故か縄が巻き付いていた。
「なるほど……触ってもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
義時は鑑定用の手袋をはめ、箱を持ち上げると角度を変えながら全体を見る。
それは、見れば見るほど見事な一品だった。
桐でできた木製の箱は、その特性もあってか状態がかなり良い。
目立った傷や汚れは、箱のどこをどう見ても確認できない。箱の表面に墨で描かれた模様は職人技で、全ての図形が一つのブレや掠れも無く息を呑むほどに繊細に描かれていた。
「山城さん、これは一体どこから?」
義時が箱を眺めている間、廻は武に箱について尋ねた。
「私もこの箱については詳しくなくて……十年前に亡くなった私の祖母の家にずいぶん昔からあったようなのですが……」
武の話によれば、この箱の所有者である父方の祖母・山城マツは十年前に病死しており、長く土地と家は整理される事なく放置されていたが、最近になってその土地を買いたいと言う人間が現れたのだ。
山城家にとっては、願ってもない申し出だった。
元々遊ばせていた土地だ、人手に渡って困るようなものでも無い。いくらでも金になるのなら、そちらの方が良いと考えるのは当然の事だ。
「ですが購入者の方から『家を潰して、売ってほしい」と言われまして、まあ当然といえば当然なんです。あんなボロボロの家、誰も欲しくないでしょうから」
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