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試合
輝平晋と節家莉亜は大学進学のため勉強中だった。
そして輝平晋は試合直前で減量中。
幸せハラスメント撲滅の話も今では書店関係者からはじまったものだとは知られていないかもしれない。
結局変わらなかったのだ。
資本主義も相変わらずでさらに金のために善良な仕事とされていた機関が崩壊した。
それなのに世間は話題にせず、誰も聞いていない成功者と意味不明な幸せにとらわれた人間たちの話だけがひろまっているいつもの光景が続くだけだった。
「ブラック企業はいじめもなくなるわけないのに。 大事なのは自分たちがなくすことができない負の側面とどうやって生きていくかただ葛藤していく日々が死ぬまで続くだけなのにな」
ってお前対戦相手だろ!
悩んでいたのがバレたのか幸せハラスメントのチラシをみていた晋に対戦相手の錨漁が話しかけてきた。
せっかく敵対していたのに距離感がなんかおかしい相手だった。
「俺に勝てばさぞ幸せだろう?」
「そりゃあ別団体で二冠のお前をたおせば全てひっくりかえるから」
「簡単にいくと思うか?」
ここで屈してどうする?
簡単じゃないけど勝ちをねらいにいくに決まっているだろう!
「あまり馬鹿にするなよ。 俺は血統も才能もある方じゃない! それでも錨に勝つ!」
錨は拍手をしながらあおってきた。
「気合いがあるのはいいことだ。 せいぜい頑張れ」
いやがらせに来たにしては風来坊すぎる。
おたがい減量あるあるなのだろうがおかしくなっているのかもしれない。
次の日は計量だ。
節家莉亜には伝えてある。
ついに試合だ。
前日計量日。
当然のように晋は契約体重をクリアした。
錨はややオーバーをし、時間まで落とすため会見には欠席していた。
節家莉亜が見ているのもあって晋は調子に乗って会見でしゃべり続けた。
「人間だから仕方がないとはいえ高校生にもなって落とせないなんて、選手として生きていくのなら恥ずかしいと思って今後は反省して欲しいですね」
後に錨は体重をクリアした。
試合の多さや水抜きに物価高騰による影響でどうしても格闘家にはさけられない壁が試合前には多すぎるがそれは国内外誰も問わない条件。
言い訳も通じない人間なら誰しもおこる平等で理不尽な戦いだ。
節家莉亜はおかゆを作ってくれた。
別にいいと言ったのに彼女はお手製の料理を用意してくれたのだ。
「もしかしてまずかった?」
「ううん。 むしろ今まで食べてきたなにもかもより美味しい」
その感想に嘘はなかった。
その次の日、他の試合が終わって晋と錨のプロデビュー戦がはじまった。
今度はつめ族相手とはちがって半裸で戦うのだ。
パンチとキックを現代格闘技の技がリングで飛びかう。
勝つために勉強も犠牲にせず、非日常とも戦って節家莉亜とのデートも楽しんだ。
だからといってそれらを言い訳せず、ひとりの押し付けられた幸せと戦う格闘家として錨と戦う。
血も出させず、顔ももらわない。
二人の技術が交錯し、塩試合にさせないよう節家莉亜や他のファンのことを思い出しながら自分たちの戦いを行う。
3Rのすえ二人の試合は終わった。
今までで一番長かった気がした。
減量もなにもかも。
そしてつめ族との戦いも。
節家莉亜は感極まったのか晋へだきついた。
「はじめてみたけどかっこよかった。 文句なしでさすが格闘家だよ晋」
ははっ。
消耗していたはずの体力が少しずつ回復していく。
「ありがとう。 莉亜のおかゆのおかげでのりきった」
その言葉に嘘はない。
高校生活最後の試合はこうして幕を閉じた。
ほんとう。
誇張抜きで過酷だった。
あとはさらに孤独な受験勉強がまっていた。
そっちもしっかり乗り越えてやる!
晋は節家莉亜と共に未来をつかもうとまた手をつないだ。
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