0人が本棚に入れています
本棚に追加
攻撃をやめてほしい
節家莉亜は幸せハラスメントを行う団体が『エンヴィオーネ』と名付けたシンボルマスコットのネーミングに引いていた。
エンヴィーって嫉妬の意味のはず。
結局書店のためじゃなくて自分たちの幸せへの不平不満愚痴と嫉妬が本音?
なんなんだよ。
やるせなくなる。
結局人間は大義名分なんかよりも自分たちが幸せならそれでよくて、他人の幸せが悪に思えるんだ。
それでも幸せハラスメントをやる人間の考え方がおかしいと節家莉亜は考えなかった。
幸せハラスメントのことについてバイト先の仲間から聞いたところによると自己啓発本やビジネス本の売れ行きが悪いのに書店のせいにされてつぶされているらしいとも聞いていたので、書店の人達がかかげる幸せハラスメントとそこに参加した人間がもつ幸せの価値観が対立でもしたのかもしれない。
エコーチェンバーも周りを巻き込むとみにくいもの。
節家莉亜はいっそこの状況をひにくったイラストをどこにも投稿しないでアナログのイラストにしてやろうかと某世紀末音楽家を思い出した。
やっぱり私は若くないのだろうか?
ちゃんと恋愛レアリティーショーを見て泣けるのに。
そんなことより今日は勉強やイラスト練習、友達とのティータイムで思いのほか時間がかかってしまった。
夜の街はあまり好きじゃないからはやく帰ろう。
節家莉亜は逃げるように電車をおりて改札を通るとひとりの女性がチラシをくばっていたのを無視した。
なにせ「幸せハラスメントに鉄槌を!」と書かれているから関わりたくなかった。
「おじょうさんお願い。 受け取って。 このチラシなくならないと帰れないから」
バイトをやらされていたのか。
でもこんな時間にまでチラシをくばってるのは不自然すぎる。
チラシを受け取ってはだめだ!
節家莉亜はとにかく逃げた。
するといつの間にか目の前にチラシを持つ女性が現れる。
「ねえ。 チラシを受け取って! お願い!」
逃げないと。
逃げないと逃げないと!
もうすぐ帰れるのになんでこんな目に?
遠回りをするたびに先回りをする女性。
おかしい。
こんな一瞬で?
足の速さに自信はないけどふりきったはずなのに必ず自分の目の前にいる。
こりゃ人間じゃない。
フィクションだけかと思ったけどもしかしたらAI技術が想像を超えたのかもしれない。
節家莉亜は砂を手にもち、女性になげた。
するとバリアなのか透明な壁をはってふせいだ。
やばいよ人間じゃないの確定!
人生で初めて腰をぬかす。
「チラシ、受け取ってぇぇぇー」
女性は姿を変えて長いナイフのような爪をもつ二足歩行の生き物になった。
「ツヨイ イシガアル コノセカイノ ニンゲンハ ケス!」
そんな強い意志なんてない!
でもそう判断してくれたのなら未来は明るいかも。
前向きにとらえる節家莉亜だったが逃げてもどうせ目の前に現れるし助けをよぶためのスマホがあったカバンもおどろいて少し遠くへなげてしまった。
手にするには目の前の化け物をどかすしかない。
くっ。
万事休すか。
すると誰かが化け物の後ろへ蹴りをおみまいしていた。
え?
制服ってことは高校生?
しかも他校だけど。
「へえ。 つめ族って本当にいたんだ。 バリアまであるなんて現実は小説よりもきなりってか!」
彼はつめ族と呼んだ化け物の反撃をジャンプしてかわし、制服を傷つけることなく化け物のツメをよけてはキックをおみまいしていた。
え?
この人ガチの格闘家?
格闘技はよく知らないけど身のひるがえしかたやパンチに、たまにプロレスとはちがう組み方で化け物をおいつめていてただものではなかった。
こんな強い人がいたらもっと話題になっているはずなのに!
SNS、というかインターネットもテレビも本もどうでもいい内容多すぎ!
さすが情報化社会。
先がおもいやられる。
節家莉亜はバッグを手にしたあと、男子高校生の戦いをみていた。
灯りもほぼないのにちゃんと化け物の攻撃を見てる!
「殺すつもりはない。 でも捕獲だけはしてみたいな。 色々と気になるんだよお前らのこと」
「クッ ブガワルイカ!」
化け物は黒と青の空間で身をつつんで消えていった。
何が起こっているのか分からなかった。
すると男子高校生は節家莉亜のもとへ手をのばした。
「よく悲鳴とか上げなかったね。 最初暗くて誰がおそわれているか分からなかったけど、女の子だったとは。 俺は晋。輝平晋。 帰り送るよ 」
おそらく染めなれている黒髪にサッカーをやっていそうな風がにあう顔の男子高校生が節家莉亜を助けてくれた。
「あ、ありがとう」
かっこいい。
こんな経験があるなんて。
先輩以来だった。
胸がたかなるときめきは。
節家莉亜は幸せハラスメントのチラシをくばっていた女性がさっきの化け物だったことを彼に教えた。
「幸せハラスメントを行う連中もこんな形で利用されるとは」
こうして第三勢力は産まれるのかもしれない。
二人だけの秘密の話題を大切にしたまま少しだけ関係が進展した気がして帰っていった。
最初のコメントを投稿しよう!