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恋
輝平晋と節家莉亜はつめ族事件から会う頻度が増えていった。
幸せハラスメントにつめ族の存在と二人にはまったく関係のない出来事によって出会うことができた。
「なんでこんなきっかけがあるんだろうって俺は考えてる」
「え? なんか不満だった?」
「ぜんぜん。 でもさ、もう少しシンプルだったら秘密にすることも少なくてすんだのかなってさ」
輝平晋は本物の格闘家だけあってどこか他の男子高校生とはちがっていた。
かといって怖さとか特別すぎる雰囲気もなかった。
節家莉亜はそんな彼の話をもっと聞いてみたかった。
つめ族だとか幸せハラスメントだとか、勉強のこと以外で。
「格闘家ってもっと筋肉質かと思っていたけど、なんか日常にとけこんでない? そんな戦闘民族がいる作品を見た事がある気がする」
「え? それって俺が何かに変身しそうってこと? まさか。 まえの夜にあったつめ族みたいな変装してたら制服がやぶれるだけだ。 そうしたら俺の裸を見て君はドン引きするだけだ」
そうかな。
節家莉亜は彼が自分を助けてくれただけでなく先輩以来のスポーツマン感に親近感がわいただけだった。
「格闘技ってバットつかったり電撃デスマッチとかするの? それとも相手をもってなげたり。 まえの化け物に攻撃した時の蹴りなんてすごかったもん」
「今のプロレスでもそこまでやらないよ。 そうだなあ。 ボクシングだったら分かりやすかったかもしれないけど、蹴り技はマニアックだしなあ」
イラストレーター志望だけあって節家莉亜の興味はつきなかった。
初めてバイトをして周りと話した時のことを思い出した。
高校二年生にして新鮮な気持ちを異性にいだくなんて生きててそうそうないと実感したからだ。
輝平晋は次に試合をひかえているらしい。
かっこいいな。
そして大学もめざしているとか。
もっとはやく彼のことを知りたかった。
好きに生きることが難しい理由ってかたよるからだと思う。
輝平晋はチケット代は払わなくていいよと節家莉亜に言ったがちゃんと財布から現金でチケット代を払った。
「こんな時のためにバイトしてるから」
すると輝平晋は腕を自分の頭にまわして照れていた。
ひとつ歳上だけど可愛いなと節家莉亜は思った。
それから二人はつめ族におそわれないようにするためと幸せハラスメントを提唱する団体から逃げるためにと理由をつけて、二人で過ごしていた。
輝平晋はもうすぐ高校を卒業するから思う存分に試合前を好きなだけ楽しんだ。
あれからつめ族も現れなかったし、幸せハラスメントの話題も少しだけ過激さがなくなっていった気がした。
そして書店へやってきた。
「なんか面白そうな本でも買おうか」
「イラスト本や雑誌は今でも悪くないよ。 でもいっか。 こうして書店くるのも久しぶり」
幸せハラスメントが書店の衰退をまねいているかは分からないけど、ちゃんと紙の本を買って少しでも支えよう。
漫画も小説も面白いからさ。
二人で買う本なんて特に決めてなかったけど、哲学や仏教や自己啓発本や医療や流行りの本とはちがう、恋愛物語にしようと二人の本能が同じ本を選んでいた。
「こんなロマンチックなこと、あるんだ」
「俺もそう思う」
せっかくなので一冊だけにしようとしたが二冊買うことにした。
輝平晋が代金を支払う。
「次の試合までにまだ時間あるし、二人でこの本の感想言ってみようか」
「うん。 あ、言語化とかむずかしい話はなしでいいよ」
二人は二人で世間と戦いながら日常を守っていくことを決めていた。
大切な高校生活だからこそ。
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